嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 王太子時代に隠され続けた託宣の相手。そのせいでアデライーデは未だ癒えぬ傷を負わされた。生まれながらに星に堕ちることを定められたカイは、やがて国の(いしずえ)となり果てる。

 カイが禁忌の異形になるためには、龍の託宣を阻む必要がある。龍に逆らうことが龍の意思であるのも、皮肉な話としか言いようがなかった。
 青龍は一体何を考えているのか。不信に思うなと言う方が土台無理な注文だった。

 ――青龍の御許(みもと)で、今代の王もすべてを見てきたであろうに

「それは……」

 ――全体像を見渡せば、行き過ぎた悲劇も必然と納得できよう
 ――未来もまたそう在るのだ
 ――心配せずとも龍に委ねれば何もかもが上手くいく

 歴代の王たちの記憶の数々は、王位継承の儀でハインリヒの脳裏に焼き付けられた。
 だがどの記憶を辿っても、そこには深い葛藤が垣間見えた。苦悩しなかった者などいなかったはずだ。そんな王たちの助言に説得力などありはしない。

 ――それを踏まえて手放せと言うておるのだがのう
 ――良いではないか。あがくのもまた人の性分よ

 穏やかに言われ、血が上りかけた頭が冷静さを取り戻す。
 ハインリヒにも王たちの言いたいことは十分解る。しかし自分は今を生きる人間なのだ。

 あの日、深い瞑想の果てで得た感覚は、日常の中で随分と薄らいでしまっている。一度は全てを悟ったように思えたが、やはり人としての何かを捨て去ることは不可能だった。

 ――心行くまであがけあがけ!
 ――そうして思う存分龍を振り回すといい!

 どっと耳障りな笑い声をたて、口々に囃し立ててくる。
 笑いどころが理解できなくて、ハインリヒはいっそうしかめっ面で眉根を寄せた。

「ハインリヒ王!」

 半ば転がり込むようにやって来たのは、近衛第一隊隊長のキュプカー侯爵だった。彼らしからぬ慌てた様子に、ハインリヒはすっと王の顔になる。

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