嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
第31話 錯綜の砦
見やった先は禍々しい紅い靄が広がっていた。
瘴気が最も濃い中心に、紅の女が佇んでいる。目の覚めるような深紅のドレス、喉元には紅玉の輝き。あれは龍の烙印と呼ばれる罪の証だ。
青龍に鉄槌を受けし禁忌の異形を前に、リーゼロッテは涙の小瓶を握りしめた。
しかし最後に相まみえた夜会では、この涙はなんの効力も持たなかった。急速にあの日の恐怖が蘇り、知らず唇を戦慄かせた。
(大丈夫、わたしはもう以前のわたしじゃないわ。今なら少しの間くらい持ちこたえられるはずだもの)
ジークヴァルトはすぐ近くにいる。その確信がリーゼロッテを奮い立たせた。
何が起きようと落ち着いて対処をするだけだ。ジークヴァルトが来るまで頑張ればいいのだと、女の次の動きを静かに待った。
紅の女がゆっくりと歩を進めてくる。覚悟を決めるも、だが女が見据えていたのは廊下の先だった。
(わたしがいることに気づいていない……?)
紅の女はリーゼロッテの横を素通りしようとしている。その間にもジークヴァルトの気配がこちらに向かっているのが感じ取れた。
そのとき一匹の小鬼が錯乱した様子で、突然ふたりの前に躍り出た。
(いけない! 瘴気のせいで恐怖が増幅しているんだわ!)
あのままでは紅の女の力に飲み込まれてしまう。咄嗟にリーゼロッテは薄めた涙のスプレーを、小鬼の頭上に振り撒いた。
ぴぎゃっと鳴いて、小鬼は驚いたように動きを止めた。きゅるんとした目つきをリーゼロッテに向けてくる。
正気を取り戻した様子にほっとするも、どこか見覚えのある小鬼に思えた。
「あなた、もしかして……」
それはいつもルチアのそばで見かける小鬼だった。ルチアも近くにいるのでは。はっとして辺りを見回した。
その先で紅の女がこちらを見やっていた。今度こそ確実に目が合って、リーゼロッテと小鬼は同時に身を強張らせた。
しかしそれも一瞬のこと、すぐに女は興味なさげに視線を外した。リーゼロッテを放置して、再び歩を進め始める。
見逃されたのか、単に興味がないだけなのか。理由は見当もつかないが、これ幸いとばかりにリーゼロッテは小声で小鬼を促した。
「今のうちよ。ほら、あなたもわたくしについてきて」
瘴気が最も濃い中心に、紅の女が佇んでいる。目の覚めるような深紅のドレス、喉元には紅玉の輝き。あれは龍の烙印と呼ばれる罪の証だ。
青龍に鉄槌を受けし禁忌の異形を前に、リーゼロッテは涙の小瓶を握りしめた。
しかし最後に相まみえた夜会では、この涙はなんの効力も持たなかった。急速にあの日の恐怖が蘇り、知らず唇を戦慄かせた。
(大丈夫、わたしはもう以前のわたしじゃないわ。今なら少しの間くらい持ちこたえられるはずだもの)
ジークヴァルトはすぐ近くにいる。その確信がリーゼロッテを奮い立たせた。
何が起きようと落ち着いて対処をするだけだ。ジークヴァルトが来るまで頑張ればいいのだと、女の次の動きを静かに待った。
紅の女がゆっくりと歩を進めてくる。覚悟を決めるも、だが女が見据えていたのは廊下の先だった。
(わたしがいることに気づいていない……?)
紅の女はリーゼロッテの横を素通りしようとしている。その間にもジークヴァルトの気配がこちらに向かっているのが感じ取れた。
そのとき一匹の小鬼が錯乱した様子で、突然ふたりの前に躍り出た。
(いけない! 瘴気のせいで恐怖が増幅しているんだわ!)
あのままでは紅の女の力に飲み込まれてしまう。咄嗟にリーゼロッテは薄めた涙のスプレーを、小鬼の頭上に振り撒いた。
ぴぎゃっと鳴いて、小鬼は驚いたように動きを止めた。きゅるんとした目つきをリーゼロッテに向けてくる。
正気を取り戻した様子にほっとするも、どこか見覚えのある小鬼に思えた。
「あなた、もしかして……」
それはいつもルチアのそばで見かける小鬼だった。ルチアも近くにいるのでは。はっとして辺りを見回した。
その先で紅の女がこちらを見やっていた。今度こそ確実に目が合って、リーゼロッテと小鬼は同時に身を強張らせた。
しかしそれも一瞬のこと、すぐに女は興味なさげに視線を外した。リーゼロッテを放置して、再び歩を進め始める。
見逃されたのか、単に興味がないだけなのか。理由は見当もつかないが、これ幸いとばかりにリーゼロッテは小声で小鬼を促した。
「今のうちよ。ほら、あなたもわたくしについてきて」