嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 せめてジークヴァルトが到着するまでは。
 こめかみを伝う汗が目に入りそうになる。拭うこともできず、ぎゅっと(まぶた)を閉じてリーゼロッテは歯を食いしばった。

「リーゼロッテ!」
「ジークヴァルト様……!」

 遠くらか待ち望んだ声が聞こえた。リーゼロッテの瞳に希望が宿り、最後の力を振り絞る。
 そのとき紅の女がにぃっと笑った。一気に瘴気が膨張し、リーゼロッテの緑を力技で(えぐ)りにかかる。

「なっ――……!」

 ぱんっとマルグリットの膜が弾けた。均衡を失って、リーゼロッテの力が乱れ波打った。

「いやぁあ……!」

 濃密な紅がヘドロのように両腕に絡みつく。体表を這い、穢れた瘴気はリーゼロッテを覆いつくした。

(気持ち悪い……!)

 閉じ込められ圧縮される。目から口から耳から、ありとあらゆる場所から女の毒が侵入してくる。毛穴のひとつひとつにまで塗り込められて、リーゼロッテは息すらできなくなった。
 詰め込まれた喉奥の異物がどんどん質量を増していく。それなのに吐きたいのに吐き出せない。

 限界を超え意識が朦朧となった。目を閉じているのに視界は(あか)一色だ。紅蓮に燃え盛る炎のように、穢れはリーゼロッテを焼き尽くす。
 いよいよ怨嗟の(ほむら)に沈もうとしたとき、この紅だけの世界に青が一瞬、ほんのひとつ(またた)いた。

 ガラスが砕け散るように、リーゼロッテを閉じこめていた空間が一気に崩れ落ち、肺に新鮮な空気が流れ込む。
 大きく息を吸うのと同時に、リーゼロッテは清浄な青の力に包まれた。

「ジーク……ヴァルト様……」
「すまない、来るのが遅くなった」

 ぎゅっと抱きしめられて、安堵の涙が頬を伝う。
 そのまま気絶しそうになったが、肌を刺す瘴気を感じリーゼロッテは自分の足で体を支えた。
 紅の女はまだそこにいる。憎しみも顕わな表情で、これまで以上の邪気を放っていた。

「リーゼロッテ、下がっていろ」

 後ろ手に庇われて、リーゼロッテは頷いた。誰かを守りながらの戦いは不利になる。先ほどそれを教えられたばかりだ。

 全身に青の力をみなぎらせ、ジークヴァルトは紅の女をじっと見据えた。








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