嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ベッティ! ルチア様をあの(ひと)から遠ざけて!」
「で、ですがぁ」
「すぐにジークヴァルト様が来てくださるから!」

 先ほどよりもずっと近くジークヴァルトの気配を感じる。それはリーゼロッテの確かな拠りどころとなっていた。

「ううっ、分っかりましたぁ」

 リーゼロッテが防御壁となっているが、辺りに充満している瘴気は相当なものだ。覚悟を決めたようにベッティは突進する勢いでルチアの元に駆け寄った。
 ルチアは未だ異形の意識に同調しかかっている。虚ろな瞳で立つルチアの腕を掴むと、ベッティは脱兎のごとくリーゼロッテの背から離れていった。
 しかしすぐにルチアがへたり込む。仕方なくベッティはそこで結界を張ったようで、仄かな光がふたりを包み込んだ。

(ありがとう、ベッティ)

 あれだけ遠くにいてくれれば、とりあえずのところは安心だ。ルチアを庇わなくて済む分だけ女に専念できる。臆することなく顔を上げ、リーゼロッテは紅の女を真っすぐ見やった。
 獲物を奪われたとでも思ったのか、紅の女は憎々しげな波動をリーゼロッテに返してくる。(ひる)みそうになる心を奮い立たせ、いっそう力の制御に集中した。

(弱すぎず、でも力み過ぎず……)

 女の瘴気に負けない絶妙な力加減を、マルグリットの緑の膜が教えてくれている。随分と無駄が減り、この調子ならジークヴァルトが来るまでなんとか持ちこたえられそうだ。
 しかし紅の女の力は弱まることを知らず、マルグリットの力と拮抗し続けている。一瞬でも気を緩めれば、あっという間に押し潰されるに違いない。
 そんな中、マルグリットの力が徐々に弱まってきているのをリーゼロッテは感じていた。その不足を埋めるように自身の力を強めていく。

(お願い母様、もう少しだけ力を貸して)

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