嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
第32話 思慕の残像
大公バルバナスの腕を振り切り、ジークヴァルトはリーゼロッテを目指していた。
夫婦の契りを交わしてから、遠隔でも彼女の気配を感じ取れるようになった。多少の緊張を孕んでいるものの、現在彼女は危険な状況にはいないようだ。
それほど危機感もなく歩を進めていたとき、突然リーゼロッテの気が膨れ上がった。彼女の浄化の力は乱れながら増大し続けていく。
「ちぃっ」
大公の制止など無視すればよかったのだ。リーゼロッテ以上に大切なものなどひとつも存在しない。それを日々実感しているはずなのに、父の立場を慮った自分が呪わしく思えてくる。
守護者に意識を合わせると、紅の異形と対峙するリーゼロッテが脳裏に浮かんだ。
その矢先、ジークハルトがぱっと目の前に現れる。そこで視えていた映像もぷつりと途絶えてしまった。
『リーゼロッテなら大丈夫だよ。マルグリットの力が守ってる』
「どうしてこっちに戻ってきた!」
『紅の女とはちょっと相性悪いんだ。どうにもあの怨嗟の波動が気持ち悪くって』
肩をすくめたジークハルトを置いて、全速力で駆け抜けた。その間にもリーゼロッテの苦悶に満ちた感情が伝わってくる。
姿が目視できたところで名を叫んだ。安堵の顔で振り向いたリーゼロッテが、直後悲鳴とともに紅蓮の炎に飲み込まれる。
「リーゼロッテ!!」
穢れた瘴気に浄化の力を叩きつけた。分厚い層に阻まれてリーゼロッテへは届かない。
舌打ちと共に一点に集中し、針先程度の孔をこじ開けていく。そこから一気に力を吹き込んで、内側から瘴気を粉砕させた。
霧散する紅の中から、ふらつくリーゼロッテが現れる。素早く抱き留めるのと同時に、残る穢れを祓うため全身に隈なく青の力を流し込んだ。
「ジーク……ヴァルト様……」
「すまない、来るのが遅くなった」
涙を浮かべ頷くと、気丈にもリーゼロッテは自ら立ち上がった。
すぐにでも休ませたいが、未だ異形の悪意はこちらへと向けられている。
「リーゼロッテ、下がっていろ」
後ろ手に庇い、紅の女に向き直った。にらみ合いながら慎重に腰を落としていく。下に片手をついて、ジークヴァルトはリーゼロッテの立つ床に青の守りを張り巡らせた。
ジークヴァルトの力が天井高く立ち昇る。青の円柱に包まれて、リーゼロッテはその場でへたり込んだ。
夫婦の契りを交わしてから、遠隔でも彼女の気配を感じ取れるようになった。多少の緊張を孕んでいるものの、現在彼女は危険な状況にはいないようだ。
それほど危機感もなく歩を進めていたとき、突然リーゼロッテの気が膨れ上がった。彼女の浄化の力は乱れながら増大し続けていく。
「ちぃっ」
大公の制止など無視すればよかったのだ。リーゼロッテ以上に大切なものなどひとつも存在しない。それを日々実感しているはずなのに、父の立場を慮った自分が呪わしく思えてくる。
守護者に意識を合わせると、紅の異形と対峙するリーゼロッテが脳裏に浮かんだ。
その矢先、ジークハルトがぱっと目の前に現れる。そこで視えていた映像もぷつりと途絶えてしまった。
『リーゼロッテなら大丈夫だよ。マルグリットの力が守ってる』
「どうしてこっちに戻ってきた!」
『紅の女とはちょっと相性悪いんだ。どうにもあの怨嗟の波動が気持ち悪くって』
肩をすくめたジークハルトを置いて、全速力で駆け抜けた。その間にもリーゼロッテの苦悶に満ちた感情が伝わってくる。
姿が目視できたところで名を叫んだ。安堵の顔で振り向いたリーゼロッテが、直後悲鳴とともに紅蓮の炎に飲み込まれる。
「リーゼロッテ!!」
穢れた瘴気に浄化の力を叩きつけた。分厚い層に阻まれてリーゼロッテへは届かない。
舌打ちと共に一点に集中し、針先程度の孔をこじ開けていく。そこから一気に力を吹き込んで、内側から瘴気を粉砕させた。
霧散する紅の中から、ふらつくリーゼロッテが現れる。素早く抱き留めるのと同時に、残る穢れを祓うため全身に隈なく青の力を流し込んだ。
「ジーク……ヴァルト様……」
「すまない、来るのが遅くなった」
涙を浮かべ頷くと、気丈にもリーゼロッテは自ら立ち上がった。
すぐにでも休ませたいが、未だ異形の悪意はこちらへと向けられている。
「リーゼロッテ、下がっていろ」
後ろ手に庇い、紅の女に向き直った。にらみ合いながら慎重に腰を落としていく。下に片手をついて、ジークヴァルトはリーゼロッテの立つ床に青の守りを張り巡らせた。
ジークヴァルトの力が天井高く立ち昇る。青の円柱に包まれて、リーゼロッテはその場でへたり込んだ。