嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第33話 破られた託宣

 場面が暗転し、リーゼロッテは何もない空間を漂っていた。
 喉元がどくりどくりと脈打っている。まるでそこに心臓があるかのようだ。

(ここはどこ? 一体何がどうなったの……?)

 紅の女の記憶を垣間見ている自覚がありつつも、リーゼロッテは未だ女とシンクロしていた。
 そのこともまた理解して、なんとか同調を解こうと試みる。

(駄目だわ……この(ひと)の想いが強すぎて……)

 引きずられるように仄暗い意識の沼へと沈み込んだ。その先で待っていたのは愛を求める渇望の嵐だ。
 焼きつけられた罪の証が揺らめくたびに、切り離せない女の念がリーゼロッテの胸を撃つ。

 ツェーザル、ツェーザル、ツェーザル、ツェーザル、ツェーザル……!

 止むことのない慟哭が響く。

 会いに来て、そばにいて、その手で誰にも触れないで
 わたしだけを見て、わたしだけに笑って、わたしだけを愛して――!

 ありったけの思いで叫ぶほど、行き場なく渇きが悪化していく。
 愛しくて切なくて苦しくて。リーゼロッテの心まで張り裂けてしまいそうだ。

 ――美しき勇敢なる魂よ……ましいよ……いよ……

 遠くから言葉が木霊した。歌うような透き通った女性の声だ。

(だれ……?)

 見回すも何ひとつ目に映らない。人影はおろか、広がるは空虚ばかりだ。

 ――選びなさい……なさい……さい……
 ――己が行くべき道を……きみちを……ちを……

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