嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 その時、何もない空間からひと筋の光が真っすぐと()し込んだ。それはカイのわき腹目がけて、紅いしるしを刻みつけていく。

「ぐぁあっ!」
「な、なに、やだ、やめて! カイ……!」

 身をよじるカイにルチアは必死にしがみついた。不気味な光を遮るために、カイの傷に手を当てる。
 しかしルチアの手を通り過ぎ、光は尚もカイの体に刻印を穿ち続けた。
 苦悶の叫びがふいに途切れ、力なくカイの腕がぱたりと落ちた。ルチアを映していた琥珀の瞳が伏せられる。

「なに? いやよ、カイ、目を開けて」

 頬を軽く叩くも反応は返ってこない。その時ふっと腕の中の重みが不自然に軽くなった。
 カイの体が青銀の光に包まれる。かと思うと、その熱さえもあっけなく失われていった。
 目の前で、カイが幻のように薄れて消えていく。咄嗟にルチアはカイの体をかき抱こうとした。

「カイ……?」

 それは一瞬の出来事だった。空になった自分の腕に目を見張る。
 さっきまでこの腕の中にカイはいた。それなのに。
 周囲を見回しても、ルチア以外誰ひとりとして見当たらない。

「うそよ、カイ、どこにいるの? 返事をして! カイっ」

 残されたのは、自分の手につく血の跡だけだ。
 赤く染まった手のひらを呆然と見つめ、ルチアは何かを否定するように頭をふった。

「いやよカイ、お願い、いじわるしないで」

 わずかに残る熱の名残を守るように、震える腕でルチアは自身の体をきつく抱きしめた。

「カイ! カイ! カイ――っ」

 ルチアの悲痛の叫びだけが、その場に虚しく響き渡る。


 その日カイ・デルプフェルトは、託宣に従い星に堕ちた。
 同時に禁忌を犯した異形の者として、国の歴史から存在を抹殺されたのだった。







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