嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

番外編《小話》たまにはこんなひと時も

 マテアスが紅茶の準備をし始める。これが休憩に入るサインであるのは暗黙の了解だ。
 フライング気味に書類を放り出した(あるじ)を横目に、マテアスは手際よくティーポットを温めた。
 ジークヴァルトが立ち上がるのと同時に、リーゼロッテとドレス選びをしていたエラがさっと部屋の隅に移動する。
 ジークヴァルトがせっせと蜂蜜色の髪を梳き始め、されるがままのリーゼロッテも恥ずかしげに顔を綻ばせた。

「わたくしが早く決めないと、ヴァルト様のお衣装も困りますわよね」
「オレの準備など高が知れている。ゆっくり考えて好きな方を選ぶといい」

 エラはふたりの会話を微笑ましそうに見守っている。
 日々繰り広げられる甘いやり取りに、エラは至上の喜びを感じているようだ。

「ヴァルト様はどちらがいいとお思いになられますか?」

 リーゼロッテが期待のこもった視線を向ける。
 並ぶドレスというよりも、主はリーゼロッテの仕草を注視していた。

「オレが選ぶならこちらだな」
「どうしてこちらをお選びに?」
「これを眺めているときの方が、お前がうれしげに見えたからだ」

 言いながら、ジークヴァルトは小さな唇に菓子をひとつ放り込んだ。
 その一声のお陰で、選びかねていた夜会のドレスも無事に決定したらしい。

(随分と気の利いた受け答えができるようになったものですねぇ)

 過去の朴念仁(ポンコツ)加減が頭を()ぎる。
 苦節十年、散々かけられてきた苦労を思うと、嘘泣きのひとつもしたい気分のマテアスだ。
 そんなふたりをエラは慈愛の瞳で見つめていた。
 リーゼロッテへの奉仕ぶりは、マテアスの子を身に宿した今も全く変わることはない。

(そんなところがまったくエラらしいですが)

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