嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 エラ用のハーブティーを用意しながら、マテアスは口元だけの笑みを浮かべた。
 懐妊が分かってから睡眠時間を削りに削り、マテアスは妊婦に対して良いもの悪いものの知識を大幅にアップデートした。
 ハーブティーひとつとっても妊婦に向かないものもある。これまでも一般的な常識は持ち合わせていたが、愛する妻のこととあっては自ずと真剣度レベルマックスにならざるを得ない。

 準備ができたと目くばせで伝える。
 それだけで通じてしまうエラは、マテアスの人生にとって得難く掛け替えのない宝物だ。
 だいぶ目立ってきたお腹のエラの手を引いて、部屋の隅に置かれた小ぶりなティーテーブルまで(いざな)った。
 これはジークヴァルトの許可を取り、エラ用に特別に(しつら)えたものだ。
 侍女たるもの立って主を見守るのが筋と、エラは初め難色を示した。
 しかしお腹の子を守るのも母の務めとリーゼロッテに諫められ、それ以来ここで休憩するのがエラの習慣となっている。

 貴婦人に対するように(うやうや)しく椅子を引く。
 声を殺してくすくすと笑いながら、エラは令嬢の時代に培った美しい所作で優雅に腰かけた。
 ハーブティーとともにナッツ入りのパウンドケーキをサーブする。これもエラ用に作らせた滋養たっぷりのスペシャルケーキだ。
 エラは上品にフォークを口に運んだ。途端に瞳を輝かせ、満足そうな笑みを向けてくる。
 つられたマテアスまでも気がついたらもうニコニコ顔だ。

 ふいにリーゼロッテの楽しげな声がした。
 見やるとジークヴァルトとともに大きな布に包まっている。あのブランケットはリーゼロッテのお手製で、ジークヴァルトの誕生日に贈られたものだ。
 あれをジークヴァルトはそれはそれは大事に扱っており、マテアスにすら触らせない。

(先日などは激務の合間に匂いをかぎまくっていましたしねぇ……)

 まるでリーゼロッテを補充しているかのようだった。それも無意識にやっているから始末に悪い。
 さすがのマテアスも、そんな主の奇行をリーゼロッテには伝えられないでいた。世の中には知らない方が幸せなこともあるものだ。

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