月明かりの下で、あなたに恋をした
「両親は離婚して……母親と弟がいます。今は、別々に暮らしていますが」
「そうなんですね」
「ええ。子どもの頃は、家庭環境が複雑で。だから、図書館が居場所だったんです」
彼が遠くを見るような目をした。
「弟さんは、おいくつですか?」
「23歳。大学を出て、今はIT企業で働いています。俺と違って、要領がいいんです。柊さんは、ご家族は?」
「両親と妹がいます。妹は今、大学生です」
「そうなんですね。仲は良いんですか?」
「はい。妹は明るくて、社交的で。私と正反対なんです」
「柊さんも、とても魅力的ですよ」
葛城さんが優しく言った。その言葉に、心臓が大きく跳ねる。
私たちは顔を見合わせて、少し照れたように笑った。
◇
カフェを出ると、すっかり暗くなっていた。街灯が、優しく道を照らしている。
「送ります」
葛城さんが言った。
「ありがとうございます」
私たちは、並んで駅へと向かって歩いた。11月の夜風が、少し冷たい。
「今日は、本当にありがとうございました」
私が言うと、葛城さんが微笑んだ。
「こちらこそ。楽しかったです」
あっという間に、駅前の広場に着いた。
「それじゃあ、また来週」
葛城さんが言った。
「はい、また」
私たちはしばらく無言で見つめ合った。葛城さんの目が、優しく私を捉えている。
「おやすみなさい、柊さん」
「はい。おやすみなさい」
葛城さんが、そっと私の手を握り、すぐに離した。その温もりに、心臓が大きく跳ねた。
私たちは、それぞれの方向へ歩き出す。
振り返りたい衝動を抑え、私は改札へと向かった。この恋を、心の中で温めるように。