月明かりの下で、あなたに恋をした

「両親は離婚して……母親と弟がいます。今は、別々に暮らしていますが」

「そうなんですね」

「ええ。子どもの頃は、家庭環境が複雑で。だから、図書館が居場所だったんです」

彼が遠くを見るような目をした。

「弟さんは、おいくつですか?」

「23歳。大学を出て、今はIT企業で働いています。俺と違って、要領がいいんです。柊さんは、ご家族は?」

「両親と妹がいます。妹は今、大学生です」

「そうなんですね。仲は良いんですか?」

「はい。妹は明るくて、社交的で。私と正反対なんです」

「柊さんも、とても魅力的ですよ」

葛城さんが優しく言った。その言葉に、心臓が大きく跳ねる。

私たちは顔を見合わせて、少し照れたように笑った。



カフェを出ると、すっかり暗くなっていた。街灯が、優しく道を照らしている。

「送ります」

葛城さんが言った。

「ありがとうございます」

私たちは、並んで駅へと向かって歩いた。11月の夜風が、少し冷たい。

「今日は、本当にありがとうございました」

私が言うと、葛城さんが微笑んだ。

「こちらこそ。楽しかったです」

あっという間に、駅前の広場に着いた。

「それじゃあ、また来週」

葛城さんが言った。

「はい、また」

私たちはしばらく無言で見つめ合った。葛城さんの目が、優しく私を捉えている。

「おやすみなさい、柊さん」

「はい。おやすみなさい」

葛城さんが、そっと私の手を握り、すぐに離した。その温もりに、心臓が大きく跳ねた。

私たちは、それぞれの方向へ歩き出す。

振り返りたい衝動を抑え、私は改札へと向かった。この恋を、心の中で温めるように。
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