月明かりの下で、あなたに恋をした
帰りの電車の中で、私はスマホのメモを開いた。今日、葛城さんに言われたアドバイスを書き留める。
『動物たちに個性を』
『ラストシーンをもっと丁寧に』
メモを取りながら、私は気づいた。心が弾んでいる。4年ぶりに、創作にワクワクしている。
そして……葛城さんに、また会えることが嬉しい。
彼と話していると、心が満たされる。一緒にいると、自分らしくいられる。
私は、頬が熱くなるのを感じた。
これってもしかして……恋、なのかな?
真帆に相談したら、きっと「恋だよ!」って言うだろう。でも、まだ確信が持てない。それとも、確信したくないのかもしれない。恋をするのが怖いから。傷つくのが怖いから。
私は窓の外に目をやる。空には、三日月が浮かんでいる。
『月は、いつも変わらずそこにある』
橘マリの言葉を思い出す。
葛城さんと一緒にいると、楽しい。彼の笑顔を見ると、嬉しくなる。彼からメールが来ると、胸が高鳴る。
これは……たぶん、恋だ。
私は、葛城律という人に恋をしている。
その事実を今、はっきりと認めた。
だけど、まだ言えない。この気持ちを、彼に伝えることはできない。
もし断られたら、この関係が壊れてしまう。一緒に作品を作ることも、できなくなってしまうかもしれない。
だから、今は心の中にしまっておこう。せめて、作品が完成するまでは……。
窓の外は、月が輝いている。三日月から、少し膨らんだ月。
葛城さんも、同じ月を見ているだろうか。
私は月に向かって、小さく呟いた。
「ありがとう」
橘マリさんへ。葛城さんへ。そして、夢を諦めなかった自分へ。
運命の出会いから、一週間。私の人生は、確実に動き始めていた。そして、私の心に恋の灯りが点った。