社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
鬼神部長降臨!?
 いつもの朝。
 いつもの通勤路に、変わらない風景。
 私、宇佐美(うさみ)ちひろは、二年前に就職した頃から、毎朝同じ時間の電車の女性専用車両に乗って通勤している。
 通勤ラッシュの時間帯ピークのため、車内はいつも大混雑だ。
 今日も私はできるだけ車両の端っこに進んで、バッグからスマホを取り出した。
 早速、ホーム画面にピン留めしてあるブログのアプリを起動させる、それが乗車中のルーティーン。
 私は『臆病うさぎの独り言』というタイトルのブログを開設していて、通勤時間はブログについたコメントのチェックに当てている。
 といっても、私は有名なブロガーやインフルエンサーとは違う。
 それでも、頻繁にコメントしてくれる読者さんが十人くらいいる。
 ちょうど昨夜、オフィスの近くで見つけたカフェに行った感想を投稿していて、一晩の間にいくつかコメントが寄せられていた。
 以前ある読者さんに、個人を特定される可能性があるから、『特に職場や自宅近くの場合は、詳細な住所や店名は伏せた方がいいですよ』とご注意をいただいて、詳しい場所や店名は記載していない。
 商品の写真は、背景をぼんやりとエフェクトして掲載した。
 その代わり、見た目や味の感想は、できるだけ詳しく書いている。
 いつも読んでくれる読者さんは甘いもの好きな女性が多く、スイーツの話題への反応は上々だ。
 こうして、ブログに寄せられたコメントを読んで返事をしていると、駅まで三十分という乗車時間は本当にあっという間。
『次は東京ー。東京駅に到着します』
「あ」 
 車内アナウンスが流れて、私は我に返った。
 窓の外はすでに東京駅のホームで、慌ててスマホをバッグに収める。
 車体が軽く揺れて、電車が止まった。
 ドアが開き、多くの人が急ぎ足で降りていく。
 私もその後に続き、ほとんど最後で降車した。
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