社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「私はそんなことを言ってもらえるような人間では……」
「君は自分を卑下しすぎだ」
 私の言葉の途中で、部長はかぶりを振って否定した。
「もっと自分の可能性を信じてあげないと、自分自身が可哀想じゃないか」
「かわい……そう?」
「そうだろう?」
 きょとんとして反芻する私に、むしろ怪訝そうに首を傾げる。
「これからは無茶振りされることもないだろうから、自分を高めることを考えるといい。期待してるよ」
 部長はそう言って右手を上げ、私の頭に伸ばしてきた。
 だけど、届く前に思い直した様子で引っ込める。
 忙しなく瞬きをする私の前で、部長は自分の右手に目を落とした。
 その手を左手で握りしめ、自分の方へと引き戻していき……。
「それでは」
 まるで隠すように面を伏せ、くるりと踵を返してしまった。
 私は当惑して、広い背中が会議室から出ていくのを見送るしかできなかった。
 けれど。
「…………」
 出口を見つめたまま、頭のてっぺんに手を置いた。
 そんな自分の行動が謎で、前髪を握りしめて誤魔化す。
 なんだろう。
 よくわからないけど、頬が熱い。
 それに、心拍もいつもより速い気がする。
 多分それは、部長が私にかけてくれた言葉のせい。
「自分を高める? そんなこと……」
 現状維持が精一杯で、今まで考えたこともなかった。
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