社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 そんな自分が照れくさくなって、ソワソワしながら立ち上がった。
 タブレットやマグボトルを胸に抱え、出口に向かうと。
「このチームは、初日から順調そうだな」
 湯浅部長が、悠然と歩いてきた。
 独り言のようでもあり、満足に話しかけてきているようでもある。
 私は周りを見回してから、思い切って背の高い部長を見上げた。
 部長は目尻を下げると、その視線をまっすぐ私に定め……。
「いい顔してるな」
「えっ?」
 予想外の言葉に虚を衝かれ、私は一瞬戸惑ってしまった。
「水を得た魚のよう……と言えば、言いたい意味が伝わるか?」
「あ……」
 丁寧な説明を受けて、私もようやく理解できた。
 それにしたって、『いい顔』だなんて畏れ多い。
「ありがとうございます……」
 気恥ずかしくて頬を火照らせ、私はあたふたと頭を下げた。
 すると、微かな吐息が降ってきた気がして、そっと顔を上げる。
「……?」
 柔らかく目を細める部長を見て、思わず首を傾げた。
「ああ、すまない」
 私が不審そうに見えたのか、部長は口元に手を遣って、ほんの少し目を逸らした。
 表情を引き締めてから、ゆっくり手を離す。
「自分の判断は正しかったと、少々悦に入ってしまった」
「判断……ですか?」
 私が聞き返すと、「そう」と頷く。
「君は元々能力がある人だ。優秀な仲間の中でこそ成長できる人材なのに、今まで燻らせてしまい申し訳なかった」
「! そ、そんな」
 あまりにも畏れ多い言葉に、私は勢いよく首を横に振った。
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