社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
『人の輪の中って、必ずしも意見を言わなきゃいけない場所ではないんですよね。みんなでワイワイって、今まで避けてきてしまったので、そんなことも気づけなかった』
 そうーー。
 チームメンバーとのランチタイムで、私から発言することはなく、みんなの話を聞いてなるほどと共感して相槌を打っていただけだった。
 メンバーのみんなは、私がおしゃべりが苦手なのを察してくれたんだろうか。
 私が聞き役に徹することができるよう、直接話題を向けてくる人はおらず、すごく居心地がよかった。
 光山さんが腕時計を確認して、『そろそろ終わりか』と言うのを残念に思ってしまったくらいだ。
 レストランからオフィスに戻るまでの道すがら、隣を歩く先輩と料理の感想を共有し合うのも新鮮だった。
『私は必要以上に臆病になって、自分から色々なものを遠ざけていた。独りぼっちがいいわけじゃないのに、自ら孤独になっていたんだと気づけました』
 自分で見返しても、今さらなことを書いていると思う。
 二十五歳にして初めての気づき、興奮気味なブログはちょっと恥ずかしい。
 でも、私は迷うことなく、公開ボタンを押した。
 投稿完了を見届けて、天井を見上げる。
 明日はどんなことがあるだろう。
 楽しみで、会社に行くのにワクワクするのは、もしかしたら初めてかもしれない。
 それに……。
『期待してるよ』
 言われた時から、ずっと頭に残っている部長の言葉。
 他人の期待に応えられず失望させるのが怖くて、すっかり断れない人になっていたのに、ストレートに言われて嬉しく感じるなんて意外だった。
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