社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
 どうしてだろう?と考えて、私はそっと目を閉じた。
 すぐに、少しだけ微笑んだ湯浅部長の顔が、目蓋の裏に浮かんでくる。
 黙って立っているとただ怖そうな人。
 なのに、私にかけてくれる言葉は、いつも不思議と温かい。
 その時の情景と一緒に思い出すと、ふわっと胸が温かくなって、なにかキュンとする。
 「っ……」
 急にソワソワして、私はパチッと目を開けた。
 背もたれに預けきっていた背を起こし、デスクに突っ伏す。
 最近、いつもこうだ。
 部長の言動を、顔を思い描くと、心拍が速くなる。
 忙しない心臓の動きに呼吸が追いつかなくて、ほんのちょっと息苦しい。
 落ち着かない鼓動も胸が疼く感覚も初めてで、慣れない身体の反応に困惑する。
 そういう自分が、ちょっぴりくすぐったいーー。
 私は頭を起こし、はーっと声に出して息を吐いて、一旦自分を落ち着かせた。
 すると、少し脳が冷めたのか、自分自身が向けた疑問の答えが閃いた。
 私は、たくさんの人に期待されて嬉しいと思える性格じゃない。
 過度な期待は重荷だし、潰されてしまうのが私だ。
 そんな私が期待を向けられて嬉しいのは、きっと湯浅部長だから。
 何故だか私を認めて、私のために私の世界を変えることまでしてくれた人。
 だから、部長の期待に、私は精一杯応えたい。
 人としては当たり前の感情なんだろうけど、そう思えることが、今、私は嬉しい。
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