社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「ってあれ……? 宇佐美さんも一緒?」
 それを聞いて、向かい側の席の先輩も顔を上げた。
「えー、なんか怪しいー」
「光山さんと宇佐美さん、ちょっと仲良しだしね」
 冷やかし混じりにからかわれ、私は慌てふためく。
「えっ。あの、違うんです。さ、さっき、その……」
 急いで否定しようとしたのに、ここでも上手く言えない。
 きちんと弁解しなきゃと焦って、かえって頭が真っ白になる。
 私は声を失い、唇を噛んで俯いた。
「おーい、そんなからかうなって。お前らが期待してるようなことはないから」
 光山さんが苦笑いして、私を庇って前に出てくれた。
「たまたま同じ電車だったみたいで、駅で会ったから、ここまで一緒に来たってだけだよ。宇佐美さん恥ずかしがり屋みたいだから、あんまりいじめてくれるなよー」
「なーんだ、そうなんだ」
「ごめんねー、宇佐美さん。気、悪くしちゃった?」
 先輩たちから謝られてしまい、私は必死に首を横に振って応える。
「……さ、宇佐美さん座って。仕事始めようか」
 私の肩をポンと叩いて促す光山さんに、無言で何度も頷くのが精一杯だった。
 そそくさと席に着いたものの、不甲斐ない自分に肩を縮める。
 私一人じゃ、無理だった。
 先輩たちに悪気はなかったのに、嫌な思いをさせたかもしれない。
 チームの雰囲気が、悪くなってしまったかもしれない。
 光山さんのおかげだ。
 彼が上手く対応してくれたから、気まずくならずに済んだ。
 私って、本当に情けない。
 どうしたら変われるだろうか。
 私は落ち込みながら、部長席を見遣った。
 湯浅部長は朝から忙しそうだ。
 電話を肩に挟んで話しながら、パソコンを操作していた。
 無意識のうちに、部長に縋ろうとしていた自分に気づいて溜め息をつく。
 湯浅部長との『競争』に勝てたら、私も変われるかな……。
 自分のパソコンに身体の正面を向けて、肩を落とした。
 ちょうど起動したのを見て、気を取り直して仕事に取りかかった。
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