社内では言えないけど ―私と部長の秘匿性高めな恋愛模様―
「へえ……」
 即答が意外だったのか、光山さんは目を瞠る。
「それはどうして、って理由聞いてもいい?」
「え? ええと……」
「ごめんごめん。突き詰めて聞かれても困るよね」
 さらに理由を問われて口ごもった私に、それ以上の追及はやめ、吐息混じりに笑った。
「宇佐美さんは、湯浅部長を怖いとは思ってない。感情の問題を、どうしてかなんて、言葉で表せることじゃなかったね」
「は、はい……」
「うん、俺も。厳しいけど、悪い人ではないって思ってる。湯浅部長」
「よ、よかった……」
 私の最初の質問に、光山さんがそう答えてくれてホッとした。
 でも私は結局、光山さんが出してくれた助け舟に乗る格好だった。
 即答で断言しておいて、理由を言えないんじゃ説得力がない。
 私がもっと上手く言えたら、説明できたら、部長を怖がる人が減るかもしれないのに。
 人に怖がられてしまうというコンプレックスを話してくれた時、部長はかなり思い詰めた様子だった。
 思ってることを言えないという私の悩みと同じく、とても切実なことを打ち明けてくれたのに、私はなんの手助けもできない。
 たくさん私を助けてくれた部長なのに、力になれない自分が歯痒い。
 なんとなく気持ちが沈んだまま、会社に着いてしまった。
 セキュリティゲートにIDを翳して入館を済ませ、光山さんと一緒にエレベーターに乗り込む。
 フロアに到着すると、彼の後から箱を降りて執務室に向かった。
「おはようございます」
「光山さん、おはようございまーす」
 先に席に着いていた先輩が、自分のデスクに向かう光山さんに挨拶を返しながら、その後に続く私を見て目を丸くする。
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