虐げられていた偽りの姫は(自称底辺の)最強魔術師に甘やかされる
ルイスと一緒に生きていくこと。それはとても華々しく、そしてこんなにも多くの人が動くのかと圧倒された。突然決まった婚約式。結婚式ではないだけマシかもしれない。しかし、第二王子であるルイスの婚約者となれば、多くの客人を招いて披露しなければならないらしい。
「緊張してる?」
準備を終えたルイスが、ソフィアの横にそっと並ぶ。その眼差しはとても柔らかい。
「……しています。こんなにも多くの方がルイス様を祝福されているかと思うと、どうしても震えてしまいそうで」
「緊張するのは悪いことじゃないからね。でも、みんなが祝うのはソフィアがいるからだ。僕だけでは、この場は成立しないよ」
「……そうでしょうか?」
「そうだよ、見てごらん。ここにいる人たちはソフィアを今か今かと待っているんだ」
ソフィアとルイスの婚約式は、豪華な宮殿の大広間で行われた。
高い天井にはシャンデリアがいくつも吊るされ、煌びやかな光が降り注いでいる。壁には歴代の王族の肖像画が飾られ、厳粛な雰囲気を醸し出していた。
この部屋が城内にあることは知っていた。しかし、いつもはがらんとしている。たまに掃除をしていたときも、配置された家具がとても豪華で、壊さないようにと細心の注意を払ってばかりいた。そんな場所に、今は何百人という客人と、装飾があっちこっちで飾られている。
会場の中央には豪華なバラのアーチが設置され、その下に二人のための特別な席が用意されている。テーブルには見事な装花が施され、色とりどりの花々が咲き誇っていた。金色の食器とクリスタルのグラスが並び、華やかな雰囲気を一層引き立てている。
貴族たちは華麗なドレスとタキシードに身を包み、会場を彩っていた。女性たちはドレスに宝石を散りばめ、男性たちは仕立ての良いスーツで決めていた。笑顔で談笑する人々の間を、給仕たちが静かに行き交い、シャンパンや美食を運んでいた。
「それにしてもソフィア、綺麗だよ」
ルイスは改まってソフィアを見つめては、感嘆の息を溢す。
「僕の婚約者だと自慢するのが嬉しい」
ソフィアは美しい白のドレスに身を包み、その姿はまるで天使のようだった。
ドレスは彼女の体にぴったりとフィットし、繊細なレースが肩から裾にかけて流れるように飾られていた。背中には長いトレーンがついており、歩くたびに優雅に揺れ動いた。髪はシンプルにまとめられ、ティアラが輝きを添えている。
たった一日でドレスが完成した──というわけではない。
以前からこのドレスが準備されていたと聞いたとき、ソフィアは驚いてルイスを見上げたものだ。「いつかはこうなる日が来てほしいと思っていたから」とウィンクされてしまえば、ソフィアは顔を赤く染めることしかできなかった。
そして今。ソフィアの前に立つルイスは立派だった。
ルイスは、華やかな婚約式にふさわしい王族らしい装いをしている。深い紺色の上質なビロードのジャケットに、金糸で繊細な刺繍が施されたベストを合わせていた。その刺繍は王家の紋章や花模様が巧みに描かれ、彼の威厳と気品を一層引き立てていた。彼のシャツは純白で、襟元にはエレガントな金のカフリンクスが輝いている。首元には、シルクの紺色のスカーフが優雅に結ばれ、全体の装いに高貴なアクセントを加えていた。
彼の端正な顔立ちと相まって一層の威厳を放っていた。
「ルイス様もとても素敵です」
「……残念だ」
「え?」
その声にはっとする。残念とは何が残念なのだろう。
途端に不安に包まれるが、ルイスはソフィアの肩にそっと手を回した。
「ソフィアとふたりっきりなら、思いきり抱きしめられるのに。さすがにここは控えたほうがいいかと思ってね」
「そ、そうしていただけると、私の心としてもありがたい限りで」
「そうだね。すまない、浮かれているのを抑えているつもりなんだ」
ルイスは恥ずかしそうに口元に手を当てる。
「こうしてソフィアをみんなに紹介できる日がくるなんて夢みたいだ」
「ルイス様……」
「マージがいたらまた怒られるだろうな。浮かれるなって」
「そんなことありません。それに……私も同じ気持ちです」
それ以上、言葉にすることがソフィアはできなかった。
お化粧だってエミリーに張り切ってもらったというのに、油断すれば泣いてしまいそう。
幸せ過ぎて、何度も涙を流してしまいそうになる。自分の人生に、こんな未来があるなんて思いもしなかった。
「行こうか」
「……はい!」
ルイスはソフィアの手を取り、優しく微笑んだ。二人が並ぶ姿は、まさに絵画のような美しさだった。
会場には音楽が流れ、バイオリンやピアノの演奏が人々の耳を楽しませていた。オーケストラが奏でる優雅なメロディが、婚約式の雰囲気をさらに盛り上げていた。ゲストたちは和やかな雰囲気の中で談笑し、美食と共に楽しい時間を過ごしている。
ソフィアが正式に前に出ると、その和やかな空気が静まり返った。
誰もがソフィアのあまりにも綺麗な姿に目を奪われていた。
「とても綺麗……!」
幼い子どもの声がしたと同時に、会場のボルテージは再び上昇した。
「ルイス様も素敵」「あんなお方が婚約者なんてピッタリね」
多くの人々が二人に祝辞を述べに来た。ルイスは丁寧に頭を下げ、ソフィアも微笑みながら感謝の言葉を返していた。
ソフィアはふと、会場の片隅に目を向けてハッとした。
そこに用意された特別な席。花で飾られたその席には、目に涙をいっぱい溜めて笑っているエライザがいたからだ。
「どうして……」
「ソフィア!」
エライザはたまらないといった様子でソフィアを抱きしめる。
「あんなにも毎日顔を合わせていたのに……会えなくなるとやっぱり寂しいのね」
チャップマン家で日々虐げられるだけの生活だったソフィアにとって、救いの声でしかなかった。
エライザに何度も助けられながら、なんとか生きていけた毎日。あの七年が一瞬にして蘇り、ソフィアはエライザの背に手を回した。
「……会いに来てくれたんですね」
「もちろんよ。あなたがルイス様と婚約式をするって聞いて……ルイス様が招待してくださったの」
ソフィアはエライザを抱きしめながらルイスを目で探した。彼は少し離れたところで客人と話していたが、ソフィアの視線に気付くとすぐに微笑を返した。
どこまでも優しい人。私の幸せを一番に願ってくれている。
「ソフィア、本当に綺麗。おめでとう」
「ありがとうございます……エライザさん」
チャップマン家では、互いに名前を呼ぶことさえ許されていなかった。
それなのに今は、呼びたいときに呼んでも咎められることはない。罰を与えられることはない。
「私ばかりソフィアを独り占めしてはだめね。またお話しましょう? 今は、ルイス様にお返しします」
そう言って、エライザはソフィアの斜め上を見た。それを追うようにソフィアも見ると、すぐ後ろにはルイスが立っていた。
「楽しんでいるようで、何よりだよ」とルイスが微笑んで言った。
「ルイス様……」
ソフィアは彼の顔を見上げ、自然と笑顔になった。
「エライザ、来てくれてありがとう。ソフィアをもらってもいいかな」
「もちろんです」
エライザはもう一度ソフィアに「おめでとう」と笑っては頭を下げてその場を去った。
「……エライザさんを呼んでくれてありがとうございます」
「ソフィアの大事な人は僕も大事にしたいから」
そう言うと、ルイスはソフィアの手を取った。
「でも少し、僕から離れていたことに嫉妬したから、今はふたりにならないか?」
「ふふ、はい」
二人は会場の一角を歩きながら、周囲の賑わいから離れた静かな場所にたどり着いた。そこには美しい花々が咲き誇る庭園が広がっていた。
ここには、前にもルイスと一緒に過ごしたことがある。
「花が綺麗だと教えてくれたのはソフィアなんだ」
「え……?」
「幼いころ、この庭を見ても何かを感じることはなかったんだ。でもソフィアが、花がいかに綺麗なのか話を聞いているうちに、僕も花が好きになった」
ルイスは言いながら、彼女を見つめた。
「ここに今も花があるのは、ソフィアのおかげなんだよ」
「……うれしいです」
ほかに、なんと返せば、この感謝の気持ちが伝わるだろう。それでもルイスにはちゃんと届いていた。
「今日は特別な日だから、一つ贈り物を用意しているんだ」
ルイスはポケットから小さな箱を取り出した。
「これは……?」
「開けてみて」
ソフィアが箱を開けると、中には美しいペンダントが入っていた。銀色のチェーンに繊細な彫刻が施された薔薇の形をしたペンダントトップが輝いていた。
「ソフィアに贈りたいんだ。僕の愛と感謝の気持ちを込めて」
「……ありがとうございます。とても綺麗……大切にします」
ルイスは微笑み、ソフィアの首にペンダントをかけた。
「ソフィア、君が僕にとってどれほど大切か、これを見て思い出してほしい」
「ペンダントがなくてもルイス様のことを考えていたのに……どうしましょう」
「それなら、いつまでも僕でいっぱいになって」
ルイスはソフィアの顎を支えるようにして持ち上げる。
「キスをしても?」
「緊張してる?」
準備を終えたルイスが、ソフィアの横にそっと並ぶ。その眼差しはとても柔らかい。
「……しています。こんなにも多くの方がルイス様を祝福されているかと思うと、どうしても震えてしまいそうで」
「緊張するのは悪いことじゃないからね。でも、みんなが祝うのはソフィアがいるからだ。僕だけでは、この場は成立しないよ」
「……そうでしょうか?」
「そうだよ、見てごらん。ここにいる人たちはソフィアを今か今かと待っているんだ」
ソフィアとルイスの婚約式は、豪華な宮殿の大広間で行われた。
高い天井にはシャンデリアがいくつも吊るされ、煌びやかな光が降り注いでいる。壁には歴代の王族の肖像画が飾られ、厳粛な雰囲気を醸し出していた。
この部屋が城内にあることは知っていた。しかし、いつもはがらんとしている。たまに掃除をしていたときも、配置された家具がとても豪華で、壊さないようにと細心の注意を払ってばかりいた。そんな場所に、今は何百人という客人と、装飾があっちこっちで飾られている。
会場の中央には豪華なバラのアーチが設置され、その下に二人のための特別な席が用意されている。テーブルには見事な装花が施され、色とりどりの花々が咲き誇っていた。金色の食器とクリスタルのグラスが並び、華やかな雰囲気を一層引き立てている。
貴族たちは華麗なドレスとタキシードに身を包み、会場を彩っていた。女性たちはドレスに宝石を散りばめ、男性たちは仕立ての良いスーツで決めていた。笑顔で談笑する人々の間を、給仕たちが静かに行き交い、シャンパンや美食を運んでいた。
「それにしてもソフィア、綺麗だよ」
ルイスは改まってソフィアを見つめては、感嘆の息を溢す。
「僕の婚約者だと自慢するのが嬉しい」
ソフィアは美しい白のドレスに身を包み、その姿はまるで天使のようだった。
ドレスは彼女の体にぴったりとフィットし、繊細なレースが肩から裾にかけて流れるように飾られていた。背中には長いトレーンがついており、歩くたびに優雅に揺れ動いた。髪はシンプルにまとめられ、ティアラが輝きを添えている。
たった一日でドレスが完成した──というわけではない。
以前からこのドレスが準備されていたと聞いたとき、ソフィアは驚いてルイスを見上げたものだ。「いつかはこうなる日が来てほしいと思っていたから」とウィンクされてしまえば、ソフィアは顔を赤く染めることしかできなかった。
そして今。ソフィアの前に立つルイスは立派だった。
ルイスは、華やかな婚約式にふさわしい王族らしい装いをしている。深い紺色の上質なビロードのジャケットに、金糸で繊細な刺繍が施されたベストを合わせていた。その刺繍は王家の紋章や花模様が巧みに描かれ、彼の威厳と気品を一層引き立てていた。彼のシャツは純白で、襟元にはエレガントな金のカフリンクスが輝いている。首元には、シルクの紺色のスカーフが優雅に結ばれ、全体の装いに高貴なアクセントを加えていた。
彼の端正な顔立ちと相まって一層の威厳を放っていた。
「ルイス様もとても素敵です」
「……残念だ」
「え?」
その声にはっとする。残念とは何が残念なのだろう。
途端に不安に包まれるが、ルイスはソフィアの肩にそっと手を回した。
「ソフィアとふたりっきりなら、思いきり抱きしめられるのに。さすがにここは控えたほうがいいかと思ってね」
「そ、そうしていただけると、私の心としてもありがたい限りで」
「そうだね。すまない、浮かれているのを抑えているつもりなんだ」
ルイスは恥ずかしそうに口元に手を当てる。
「こうしてソフィアをみんなに紹介できる日がくるなんて夢みたいだ」
「ルイス様……」
「マージがいたらまた怒られるだろうな。浮かれるなって」
「そんなことありません。それに……私も同じ気持ちです」
それ以上、言葉にすることがソフィアはできなかった。
お化粧だってエミリーに張り切ってもらったというのに、油断すれば泣いてしまいそう。
幸せ過ぎて、何度も涙を流してしまいそうになる。自分の人生に、こんな未来があるなんて思いもしなかった。
「行こうか」
「……はい!」
ルイスはソフィアの手を取り、優しく微笑んだ。二人が並ぶ姿は、まさに絵画のような美しさだった。
会場には音楽が流れ、バイオリンやピアノの演奏が人々の耳を楽しませていた。オーケストラが奏でる優雅なメロディが、婚約式の雰囲気をさらに盛り上げていた。ゲストたちは和やかな雰囲気の中で談笑し、美食と共に楽しい時間を過ごしている。
ソフィアが正式に前に出ると、その和やかな空気が静まり返った。
誰もがソフィアのあまりにも綺麗な姿に目を奪われていた。
「とても綺麗……!」
幼い子どもの声がしたと同時に、会場のボルテージは再び上昇した。
「ルイス様も素敵」「あんなお方が婚約者なんてピッタリね」
多くの人々が二人に祝辞を述べに来た。ルイスは丁寧に頭を下げ、ソフィアも微笑みながら感謝の言葉を返していた。
ソフィアはふと、会場の片隅に目を向けてハッとした。
そこに用意された特別な席。花で飾られたその席には、目に涙をいっぱい溜めて笑っているエライザがいたからだ。
「どうして……」
「ソフィア!」
エライザはたまらないといった様子でソフィアを抱きしめる。
「あんなにも毎日顔を合わせていたのに……会えなくなるとやっぱり寂しいのね」
チャップマン家で日々虐げられるだけの生活だったソフィアにとって、救いの声でしかなかった。
エライザに何度も助けられながら、なんとか生きていけた毎日。あの七年が一瞬にして蘇り、ソフィアはエライザの背に手を回した。
「……会いに来てくれたんですね」
「もちろんよ。あなたがルイス様と婚約式をするって聞いて……ルイス様が招待してくださったの」
ソフィアはエライザを抱きしめながらルイスを目で探した。彼は少し離れたところで客人と話していたが、ソフィアの視線に気付くとすぐに微笑を返した。
どこまでも優しい人。私の幸せを一番に願ってくれている。
「ソフィア、本当に綺麗。おめでとう」
「ありがとうございます……エライザさん」
チャップマン家では、互いに名前を呼ぶことさえ許されていなかった。
それなのに今は、呼びたいときに呼んでも咎められることはない。罰を与えられることはない。
「私ばかりソフィアを独り占めしてはだめね。またお話しましょう? 今は、ルイス様にお返しします」
そう言って、エライザはソフィアの斜め上を見た。それを追うようにソフィアも見ると、すぐ後ろにはルイスが立っていた。
「楽しんでいるようで、何よりだよ」とルイスが微笑んで言った。
「ルイス様……」
ソフィアは彼の顔を見上げ、自然と笑顔になった。
「エライザ、来てくれてありがとう。ソフィアをもらってもいいかな」
「もちろんです」
エライザはもう一度ソフィアに「おめでとう」と笑っては頭を下げてその場を去った。
「……エライザさんを呼んでくれてありがとうございます」
「ソフィアの大事な人は僕も大事にしたいから」
そう言うと、ルイスはソフィアの手を取った。
「でも少し、僕から離れていたことに嫉妬したから、今はふたりにならないか?」
「ふふ、はい」
二人は会場の一角を歩きながら、周囲の賑わいから離れた静かな場所にたどり着いた。そこには美しい花々が咲き誇る庭園が広がっていた。
ここには、前にもルイスと一緒に過ごしたことがある。
「花が綺麗だと教えてくれたのはソフィアなんだ」
「え……?」
「幼いころ、この庭を見ても何かを感じることはなかったんだ。でもソフィアが、花がいかに綺麗なのか話を聞いているうちに、僕も花が好きになった」
ルイスは言いながら、彼女を見つめた。
「ここに今も花があるのは、ソフィアのおかげなんだよ」
「……うれしいです」
ほかに、なんと返せば、この感謝の気持ちが伝わるだろう。それでもルイスにはちゃんと届いていた。
「今日は特別な日だから、一つ贈り物を用意しているんだ」
ルイスはポケットから小さな箱を取り出した。
「これは……?」
「開けてみて」
ソフィアが箱を開けると、中には美しいペンダントが入っていた。銀色のチェーンに繊細な彫刻が施された薔薇の形をしたペンダントトップが輝いていた。
「ソフィアに贈りたいんだ。僕の愛と感謝の気持ちを込めて」
「……ありがとうございます。とても綺麗……大切にします」
ルイスは微笑み、ソフィアの首にペンダントをかけた。
「ソフィア、君が僕にとってどれほど大切か、これを見て思い出してほしい」
「ペンダントがなくてもルイス様のことを考えていたのに……どうしましょう」
「それなら、いつまでも僕でいっぱいになって」
ルイスはソフィアの顎を支えるようにして持ち上げる。
「キスをしても?」