甘い生活  Casa al mare
「僕も、実は海香子ちゃんと同じで、昔は都会での暮らしに憧れたよ。だから、大学の頃から最近まで東京で部屋を借りてたけど、今の家を買い取った時、ここが僕の居場所なんだ⋯⋯と思えたから」

清海さんは、本来、私には手の届かないような人だ。

そんな凄い人だって、都会ではなく、海辺の小さな町での暮らしがいいというのだから、やはり、都会も田舎も、優劣などないのだろう。

「そっかぁ⋯⋯。ねぇ、もし私が人魚姫なら、清海さんは何?王子様?」

「うーん、王子だったら、人魚姫と一緒になれないから、それは嫌だな」

全く、この人はどうして、そんな思わせぶりなことばかり言うのか。

家に着くと、清海さんは相変わらず、さっさと荷物を持って行ってしまう。

「あ⋯⋯また持たせてしまってごめんなさい」

「そんなの、気にしないでいいってば」

後部座席を見ると、もう荷物はない。

もうない⋯⋯?
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