悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない
 恋ではないにせよ、彼のなかで志桜よりは愛奈の好感度が高いのは間違いなさそうだ。もっとも、それは彼以外のほぼすべての男性にも当てはまりそうな話だけれど。
 実際、パーティー後に志桜と彼が交わした話題はビジネス絡みのものだけ。雑談を盛りあげてくれるのはいつも雄大だった。

(婚約破棄に応じる気はないって、どういう意図で言ったんだろう)

 気まぐれなのか、志桜への意地悪なのか。それとも、まだこの縁談にビジネス上のメリットがあると判断しているのか。

「……わからない、ちっとも」

 思わず漏らしてしまったひと言を隣の雄大が聞いていたようだ。彼が志桜の顔をのぞく。

「なにか懸念点がありました?」
「あっ、いえ。ちょっと別の考えごとを」
「それならよかった。今回の企画で気になる点があればいつでも連絡してくださいね」

 営業マンらしく爽やかに笑んだあと、彼は声をひそめてささやいた。

「ほら。鷹井さんは根が技術者だから話がすぐ専門的になるでしょう? その翻訳も僕の役目ですから」

 志桜はクスクスと肩を揺らした。

「園村さん、有能秘書みたいですね」

 お世辞ではなく、本当にそう感じた。実際、サンノゼにも同行していて、今回一緒に帰国したそうだ。楓にとって必要不可欠な人材なのだろう。
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