恋するだけでは、終われない / わたしの恋なら、終わらせた
第四章
第一話
……ちょっと、なんなのこの学校!
終業式が終わったと思ったら、次の日から冬期講習なんて。
わたし、聞いてないんですけど!
「いや……高嶺。予定表にのってただろ?」
「『冬休み』って書いてあったじゃん!」
「休みにやるから講習だろ。そうでなきゃただの授業になる」
……ちょっと! アンタなんなわけ?
そのさぁ。
知ってるだろう・当たり前だろう・常識だろうみたいないいかた!
「だいたい、アンタにいわれるってのがおかしいし!」
「なんでだ?」
「だってアンタさぁ。高校生にもなってサンタがっ……」
「キ・ャ・〜!」
ウグっ……。
姫妃ちゃんが、いきなりわたしに抱きついてきて……。
く、苦しいんですけど……。
「……受験生が隣にいるのよ、静かにしなさい」
「楽しそうだけど。ご、ごめんねぇ……」
月子ちゃんに、美也ちゃん。
優等生的発言、いいですよね!
でも、だったらついでに。
このバカに、ズバリ教えてくれたらいいのに!
あと、佳織先生と響子先生も。
さっきからずっとパンばっかり食べてないでさぁ。
いっそのこと、コイツにいってやってよ!
「ねぇ由衣……そっとしておいてあげようよ……」
えっ、玲香ちゃん!
もしかして、悟ったの?
それとも諦めたの?
「童心のまま、おとなになれるなんて。なかなかないことだよ」
なにそれ。まさか……受け入れてないよね?
「なあ高嶺、どこか調子でも悪いのか?」
……ったく。
そう聞いてくるアンタのせいだよ、この状況。
調子狂うに、決まってるじゃん。
あぁ……昨日は。
せっかくいい終業式だったと思ったのに……。
わたしは、不思議そうな顔でわたしをみる。
目の前の超鈍感男のセリフを、頭の中で再生する。
「サンタクロースさんへのお願いって、なににしましたか?」
なんなの、アンタ?
比喩表現とか、絶対無理な鈍感男が口にしたってことは……。
あれ、絶対本物のサンタさんの話ししたんでしょ?
だったらさぁ、みんなに聞くけど。
もうわたしたち、高校生なんだから。
サンタなんてもういない。
……そう教えてあげたら、ダメなわけ?
……せっかくの、章の冒頭なのに。『逆ギレパート』で出番を終えたと。
いつかまた、高嶺には怒られそうだけれど。
すまんがいったん。
僕に、話しをさせてくれ……。
サンタクロースなんてもういない。
そんなことくらい、『僕は』わかっている。
でも僕としてはこれ以上、『三藤先輩が』信じていることについて。
結論を伸ばすわけには、いかなかったのだ。
確かにタイミングとしては、微妙だった。
でも、あの雰囲気だったからこそ。
「もう高校生よ、信じてなんていないわ……」
先輩がそう答えてくれれば、終われたことだったのに……。
それに加えて、先生たちがやってきたあとも。
『誰ひとりとして』、僕の質問に答えてくれなくなるなんて……。
正直とんでもなく、予想外だった。
あぁ……どうしよう……。
まさか、高校生にもなって。
あるいは、元・高校生にもなって。
まだ『みんな』が、サンタクロースを『信じている』なんて……。
この部活のみんなが。
夢見る夢子ちゃんみたいなひとたちばかりだったなんて、ある意味悪夢だ。
全員が、十六歳以上。
おまけに先生たちなんて……何歳か知らないけれど……。
この僕がいまさら、みんなに向かって。
サンタなんていないよと夢を打ち砕くなんてこと。
できるわけ、ないじゃないか……。
ただ、よくわからないけれど。
三藤先輩はパソコンも使うし、本もたくさん読むんだから。
そこに事実が書いてあったりしないんだろうか……?
そうか! 先輩は古典好きだ。
ということは、平安時代にはサンタクロースは出てこない。
日本書紀にだって登場しないから……。
あぁ……そうしたら知りようがないってことなのか?
「……でも、スパイ小説読みますよね?」
「急に、ど、どうしたの海原くん?」
「あと、恋愛小説読むんですよねっ?」
「た、たまたまなのよ!」
えっ……もしかして。
三藤先輩、怒っちゃったんですか?
「ねぇ昴君……どうしたの?」
「れ、玲香ちゃん!」
「……ごめん、なに?」
ダメだ、すでに警戒されている……。
「な・に・な・に?」
波野先輩か……頭の中、お花畑のときがあるから……。
クリスマスが近いのに、聞けそうもないよなぁ……。
「な・ん・か! 感じ悪いこと考えてない?」
い、いや別に……すいません。
「あ、あの……大丈夫、海原君?」
頼みの都木先輩。
でも、たまにぶっ飛んだことをするだけあって。
やっぱり天然、じゃなくて純情なんだよな、きっと……。
「いえ、受験の差し障りになってはいけないのでやめておきます」
「えっ……逆に気になるんだけど?」
「大丈夫です! 最後に聞きます!」
「わたしが教えてもらえるのって……『最後』なの……?」
マズイ……またなにか勘違いをさせてしまったようだ……。
高嶺のその顔は、なんだか関わりたくないというか。
とりあえず明らかに……いまじゃないんだよな。
「ちょっとさぁ〜。平気なの〜海原君?」
藤峰先生なんて、俗物の塊。
いやそうじゃなくて、現実主義者だから。
「え、サンタさんいないの? まぁ無料でプレゼントくれたら誰でもオッケー!」
……とかいうだけだろう。
「……ということは、代わりに『くれる相手』を見つけない限り無理だろうから」
「え?」
「永遠に、無理だよな……」
「は?」
「な・ん・か、結構失礼な妄想はいってない?」
「わたしもそう思う」
「大丈夫かしら、海原くん?」
「もう、放っておきません?」
「もう、そっとしといてあげようよ」
みんながなにか、僕について口にしていて。
最後に、藤峰先生が。
「知ったら殺意が芽生えそうな気がするけどね、わたしは」
妙に恐ろしいことを口走った気がするけれど。
……そのとき。
「ん?」
ある意味で。
一番『読めない人』と、目が合った。
高尾先生……か。
「あの……ちょっと『調べ物』にいってきます」
「えっ、ちょっとアンタ?」
すまん、高嶺。
「海原くん、書類がいっぱいあるのよ?」
これも三藤先輩のため、なんですけどね……。
「戻ったら、きちんとやりますので……」
前章で『覚醒』した僕は、まだ健在だ。
そう、とにかく問題の解決のためには。動くのが肝心なのだから……。
……みんなの『心配』をよそに僕は『旅』に出る。
すべてはクリスマスのため。
いや、三藤先輩とみんなが信じるサンタクロースのためだ。
ただなんとなくだけれど。
解決の『鍵』が、高尾先生にある気がして。
「しばらく、失礼します」
僕はそう告げると。
……放送室をひとり、あとにした。