恋するだけでは、終われない / わたしの恋なら、終わらせた
第三話
「……お互いの手とかじゃなくて、パンですよパン!」
妙なテンションの由衣が、爆笑しながら真似をしている。
「デニッシュ・チョココルネ、だけどね……」
少し頬が赤い気がする、響子先生は。
まさか照れているわけじゃ……ないですよね?
……海原くんが近頃ずっと『変』だった理由を、ようやく理解した。
ちなみに、放送室には野次馬。
失礼、本校のお偉がたも同席中で。
ご迷惑をおかけしたこともあって、わたしが謝っている。
「なにぶん母の勘違いからはじまったことですので……大変失礼しました」
「理由がわかったから、いいのよ〜」
「まったく。なにを考えとるかと思ったらのぅ」
「あの……三藤先輩。勘違いというよりはですね……」
「海原くんは、静かにしていてもらえないかしら」
「え、ええっ……」
「……前に、夏緑の『許嫁』のときもあったでしょ」
「へ?」
「親が信じていても、娘は意外と気がついたりするものよ」
「え? もしかして……とっくに気づいていたんですか?」
もう……わたしは海原くんに。
あのときすでに、それとなく伝えたはずよ?
それに、さすがのわたしでも。
サンタクロースの正体くらいは知っている。
ただ両親にあえて伝えずに、この歳になっただけなの。
「あ、あのじゃぁ……?」
「あ、あれはね……」
わたしは……『この時期』は落ち着かない。
確かに以前。
海原くんにそんなことを、口にした。
でも、それについては。
月刊の文芸誌がポストに届く日が近かったからで。
いくつかの連載の最終回が、気になっただけなのよ。
「ふーん。ねぇ月子、本当にそれだけ?」
玲香の質問は、聞こえなかったことにしておこう。
恋愛小説の結末が、つい気になったなんて。
……きっと余分な情報なだけでしょうし。
「まぁコイツが、完璧に色々理解できてたら、誰も苦労しませんけどねぇー」
由衣がいうのは、もっともで。
「し、心臓に悪いとき。あるもんね……」
美也ちゃんのそれは、海原くんのことだけでなく。
発信源が、美也ちゃん自身のときもあるのだけれど……。
「……いずれにせよ、これで無事にクリスマスを迎えられるわね」
きっと、寺上校長や。
「『まとも』じゃないが、『まとも』だと安心できたわい」
鶴岡理事長に、とっては。
一件落着、あとは部活。
いえ、野暮用をよろしくという感じなのだろう。
「あぁ。安心したらパン食べたくなったねぇ〜」
佳織先生も、いつもどおりだけれど。
「そ、そうだねぇ〜」
高尾響子、この先生については。
……なんだか色々、怪しい香りが少しした。
……同じ時刻の、体育館。わたしは女子バレー部の練習中だ。
「夏緑、さっきの動きよかったよ!」
「あ、ありがとうございます!」
二年の先輩たちが、わたしに笑顔で声をかけてくれる。
この先輩も、別の先輩も楽しそうなのに。
どうして部長と『あの子』は、『あんなふう』なんだろう?
「……でもここで聞いたら、またわたし浮くんだよねぇ」
「ん? どうした夏緑?」
「陽子ちゃん? い、いえなんでもないです」
「そっか。なにか気になったら、いつでも教えてよ!」
陽子ちゃんはもちろんだけど、バレー部の先輩たちもやさしい。
わたしが歓迎されているのは、よくわかる。
ただ、部長と『あの子』だけは……。
みんなとは違う雰囲気を感じてしまう。
そういえば、部長はたまに話すけれど。
『あの子』とは、まだあいさつくらいしか言葉を交わしていない。
いや正確には。練習のアドバイスなんかはきちんとしてくれて。
特にストレッチとか、怪我しないようにと気づかってくれたり。
片付けだって、一緒にやってくれている。
ただ、一般的な会話をしたことが。
……ほとんどといえるくらいなにもないのだ。
「どうした、夏緑?」
「え、なんでもないよ!」
「あぁ……あのふたりかぁ〜」
移籍以来、わたしに一番色々教えてくれる同級生の女の子が。
わたしの視線に気づいたらしい。
「あのふたりにとって、次が特別な試合なんだよね」
「そうなの?」
「集中してるんだよ、きっと」
その子は、少し遠い目でふたりを見ると。
「まっ。陽子先輩と、夏緑。ふたりもきてくれたからね!」
わたしに向かって白い歯を見せてから。
「ほら、次レシーブやるよ!」
わたしに早く上達しろとうながしてくる。
リギリの人数だったのが『余った』から。
もしかして『あの子』と、レギュラー争いっていうことなのかな?
でもそれなら、わたしが控えなのは明白で。
別に特別な理由になんてなりえない。
……由衣ひとりじゃなくて、陽子ちゃんとわたしのふたりが入部した。
そっか、ギリギリの人数だったのが『余った』から。
もしかして『あの子』と、レギュラー争いっていうことなのかな?
でもそれなら、わたしが控えなのは明白で。
別に特別な理由になんてなりえない。
リギリの人数だったのが『余った』から。
もしかして『あの子』と、レギュラー争いっていうことなのかな?
でもそれなら、わたしが控えなのは明白で。
別に特別な理由になんてなりえない。
リギリの人数だったのが『余った』から。
もしかして『あの子』と、レギュラー争いっていうことなのかな?
でもそれなら、わたしが控えなのは明白で。
別に特別な理由になんてなりえない。
あとは……保健室登校だったわたしを警戒しているとか?
まぁ、いままでは変な格好をしていたし。
同級生ならなおさら、話しかけにくいのかな。
でもそれなら……逆にわたしから話しかけないといけないな。
「ほら夏緑! ちゃんとこっち向いて!」
「は、はい!」
わたしの居場所は、ここなのだから。
控えなら控えらしく、いざというときのために。
きちんと練習しておかないと。
……次の休憩時間に、思い切って話しかけよう。
わたしは、そう思い直すと。
「次、お願いします!」
自称だけれど、放送部仕込みのよくとおる声を。
……体育館中に、響かせた。