すこしずつ、恋をする。
乾杯の合図で会場が賑わう中、二人は隅の席に腰を下ろし、話し始めた。

「仕事、忙しそうだね」

「うん、まあ……。麻衣は?」

「私も、同じくらいかな……。」

言葉は普通でも、胸の奥では違う思いが渦巻く。麻衣は(高校の頃、もっと話しておけばよかった)と心でつぶやく。直樹も同じように思っているのかもしれない。しかし、大人になった今、その気持ちを口に出す勇気はない。

「昔は、もっと簡単に笑えたのにね」

直樹の声は少し遠く、でも正直な響きがあった。麻衣は小さく頷く。

(あの時、素直に好きだって言えていたら……)

胸の奥でだけつぶやく。直樹もきっと同じ気持ちを抱えているのだろう。けれど、大人になった今は、素直には伝えられない。

会が終わり、街の灯りが窓越しに揺れる。二人は名残惜しそうに別れ、麻衣はタクシーに揺られながら、胸の奥の切なさを感じる。

(会えてよかった……でも、もう少し早く気づけばよかった……)

心の中で小さな後悔が広がる。言えなかった本音は、静かに胸に残るだけ。けれど、あの短い再会の時間は、二人の心に確かに温もりを残していた。

タクシーが角を曲がると、ふとスマートフォンに直樹からのメッセージ通知が光った。

「無事に帰れたかな……また、話せる?」

麻衣の胸は高鳴る。文字だけでも、少しずつ二人の距離は近づいているような気がした。

夜景の光が揺れ、街の灯りが静かに輝く。すれ違ったままだった二人の心に、ようやく淡い再会の兆しが差し込んだ。
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