雨の闖入者 The Best BondS-2

「ジスト……。でも……!」


「エナ! 走れ! 心配ねェよ! あいつは殺しても死なねェからよ!」


立ち止まろうとしたエナの手を掴み、ゼルが無理矢理引っ張る。


「う、うん……」


持久力勝負の走りならば彼らに引けを取らない自信はあるが、
速度勝負の走りになると、自分が足を引っ張る存在でしかないことをエナはしっかりと理解していた。



だから、走る。

「気をつけて!」


言ったすぐ直後、森から大きな獣が姿を現した。


やはり、獣の全貌はまだわからない。


正体さえも掴めない獣を前にしても尚、ジストは不敵に笑った。



「さぁて、何処からでもかかって来……」



だが、ジストの横を黒い風が通り抜ける。

ジストは咄嗟にそれを目で追い、体を動かした。




「俺は無視かあっ!」

手を伸ばした瞬間、何かを掴む。

ぐん、と引っ張られるような力にジストの体は容易く浮き上がった。



「ジストの役立たず――――っ!!!」


ちらりと背後を見て状況を理解したエナは渾身の力で叫んだ。


なにをかくそう、真っ黒な塊の後ろで、ジストがぶらぶらと浮かんでいるのだ。


「ジストさん、不味そうに見えるみたいだね……」


ジストが掴んだのは獣の尾。


其れにぶら下がりながらジストは心底傷ついたというように呟いた。


「知るかボケェェっ! エナ! 急げ! 追いつかれっぞ!」


「そ、んなこと、言ったって……っ!」


距離は急速に縮まりつつある。


獣並の身体能力を備えているエナであろうとも、本物の獣には敵わない。


「四本足なんてセコい――――っっ!!」


獣が一際大きく地を蹴った。


それにあわせてジストも急激な重力の後、ふわりと浮く。



「エナっ!!」



ゼルが前方で目を見開いて。


その視線を追うようにエナの視線が背後へと移る。




漆黒の闇が眼前に広がった。




.
< 131 / 156 >

この作品をシェア

pagetop