雨の闖入者 The Best BondS-2
第二章『蜘蛛の糸で織られた現実』
第二章『蜘蛛の糸で織られた現実』
1
その夜、本来ならば望月が空高く昇り辺りを照らす頃。
ジストの言い付けを守らずにこっそりと屋敷を抜け出したエナは港へとやってきた。
誰にも見咎められぬよう部屋の窓から抜け出してきたので、完璧な雨よけとは程遠いレインコートに手持ちのスニーカーという出で立ち。
雨が与えていると思われる影響を鑑みると、あまりに軽薄な判断だがエナ自身そこに不安を感じているような様子は微塵も無い。
この自然が多く残る北の大地に酸性雨が降るという話は聞かないし、
たかだか一日やそこら雨にあたっただけで死んでたまるか、と波止場に立ったエナは、顔を覆っていたフードを取り払った。
人の気配など――命の気配などない波止場。
目の前に広がる全てを飲み込むような暗黒の海には、道標を必要とする船も無いのに灯台だけが時折光る。
まるで死者を導いているかのように。
じっとりと生気を絡め取られるような風の正体を肌で感じ取ろうと身を任せる。
波の音も掻き消す雨の音。
テレビのノイズのような不規則が規則的である其れは頭が割れそうに五月蠅く、また耳鳴りがしそうな程に静かだった。
包み込む臭いは海と雨とが混じり合い、生臭さに鼻の奥がツンとなる。
雨と風の冷たさに体温を急激に奪われて、手の先がぴりぴりと痛む。
視覚も聴覚も嗅覚も触覚でさえも機能しない中で、エナは目を閉じた。
なまじ色んな景色を見るよりも、色んな音を聞くよりも、良い匂いを嗅ぐよりも、体温で身を守られているよりも。
全てを閉ざされた上だからこそ見えるものが、感じるものがある。
微かな『不自然』を。
感じ取るのは、第六感。
そして、第六感で感じ取ることが出来たのなら、閉ざされた五感が意味を為す。
麻痺した感覚に飛び込んでくる真実が、必ず存在する。
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その夜、本来ならば望月が空高く昇り辺りを照らす頃。
ジストの言い付けを守らずにこっそりと屋敷を抜け出したエナは港へとやってきた。
誰にも見咎められぬよう部屋の窓から抜け出してきたので、完璧な雨よけとは程遠いレインコートに手持ちのスニーカーという出で立ち。
雨が与えていると思われる影響を鑑みると、あまりに軽薄な判断だがエナ自身そこに不安を感じているような様子は微塵も無い。
この自然が多く残る北の大地に酸性雨が降るという話は聞かないし、
たかだか一日やそこら雨にあたっただけで死んでたまるか、と波止場に立ったエナは、顔を覆っていたフードを取り払った。
人の気配など――命の気配などない波止場。
目の前に広がる全てを飲み込むような暗黒の海には、道標を必要とする船も無いのに灯台だけが時折光る。
まるで死者を導いているかのように。
じっとりと生気を絡め取られるような風の正体を肌で感じ取ろうと身を任せる。
波の音も掻き消す雨の音。
テレビのノイズのような不規則が規則的である其れは頭が割れそうに五月蠅く、また耳鳴りがしそうな程に静かだった。
包み込む臭いは海と雨とが混じり合い、生臭さに鼻の奥がツンとなる。
雨と風の冷たさに体温を急激に奪われて、手の先がぴりぴりと痛む。
視覚も聴覚も嗅覚も触覚でさえも機能しない中で、エナは目を閉じた。
なまじ色んな景色を見るよりも、色んな音を聞くよりも、良い匂いを嗅ぐよりも、体温で身を守られているよりも。
全てを閉ざされた上だからこそ見えるものが、感じるものがある。
微かな『不自然』を。
感じ取るのは、第六感。
そして、第六感で感じ取ることが出来たのなら、閉ざされた五感が意味を為す。
麻痺した感覚に飛び込んでくる真実が、必ず存在する。