雨の闖入者 The Best BondS-2
今のエナは例え気配を隠すのが上手いジストが忍び足で近付いてきても即座に気付くことができるだろう。

それほどに、彼女は集中していた。

エナはゆっくりと目を開き、顔を顰めた。

どうしても邪魔な音がエナの行く手を阻んでいるからだ。

エナは何も見えぬ虚空をきつく睨み、しばしの間ぴくりとも動かず仁王立ちしていた。

エナの右目……則ち、この惑星そのものの色でもある碧がかった蒼い瞳が人知れず仄かに光り輝く。

見る者の心を奪うような鮮やかにしてまばゆい蒼天の色の中に太陽のような苛烈な光を宿す。

蒼なのか金なのか、あるいは両方なのか。


それは、光そのもの。


エナは思いつめたとも覚悟を決めたともつかぬ表情で半眼を閉じた。


「……仕方ないか」


諦めと呼ぶには意思を強く秘めた独り言を繰り出すと、エナはレインコートを脱ぎ捨てた。

レインコートに当たって跳ね返る雨の音がエナの聴覚を活かし続けていたからだ。

肌に直接当たる雨ならば、跳ね返り音をたてようとも体がその音を感じ、他の雨の音同様に規則性を見出だすことが出来る。

その中に溶け込める。

胸元で静かに落ち着いている水晶に人差し指で優しく触れる。

雨を吸い込んだかのように冷たい水晶を感じながらエナは再び目を閉じた。

否、冷たいのはエナの手であったのかもしれない。

雨によって体温を奪われ続けるエナの体にはもはや、感覚と呼べるようなものはなかった。

温もりも冷たさも、何も無い。




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