これが愛じゃなければ
序章:はじまり



「─ねぇ、お姉ちゃん」

弱々しい声が聞こえて、燈(アカリ)は林檎の皮を剥く手を止めた。

「どうしたの、輝(ヒカリ)。何か欲しいものでもあった?」

白く、痩せ細った顔。細い腕。キラキラしていた瞳は弱ってもなお、輝きを無くすことなく。

「ありがとう」

「えぇ?急にどうしたの」

「お父さんとお母さんが急に居なくなって、大変なことばっかりだったよね。私、幼い頃から身体弱くて、私が虐められている時、いつもお姉ちゃんが助けてくれて……」

「何で急にそんな話をするの?私、輝が居てくれたから、辛いことなんてなかったよ。輝がいれば、何だってできる気がしてた。輝がいつも、私を信じてくれたから」

頭を撫でると、嬉しそうに笑う片割れ。

「お姉ちゃん、私の事好き?」

「勿論。大好き。世界で一番、愛してるわ」

「フフフッ、嬉しい〜……でもね、お姉ちゃんも幸せになっていいんだよ」

「何言ってるの。すっごく幸せよ。貴女がいて、貴女が沢山に人に愛されている姿を見ることが出来て」

「そうじゃなくて……昔、みたいに。お姫様になりたいって、ふたりで話してたよね」

「話してたねぇ」

御伽噺が大好きだった。
お父さんとお母さんがよく読み聞かせをしてくれて、子供用のメイク道具でおしゃれして、お父さんとお母さんも『可愛い』っていっぱい褒めてくれて、幸せだった。

「輝はすっごく可愛くなって、本当にお姫様みたいで。お父さんとお母さんが生きてたら、泣いてたかも」

「フフッ、結局、お姉ちゃん、私と一緒にデビューしてくれなかったね」

「私は向いてないもの」

「嘘つき。私、演技が好きなこと、知ってるんだから」

「……っ」

─本当は、演じることは大好きだった。
でも、それだけの費用も時間もなかった。
可愛い可愛い妹を眺めていられるだけで幸せを感じられた自分には、それ以上は不相応だと思ったんだ。

「お姉ちゃん、嘘ばっかり」

「そうだね。でも、演じることよりも輝を応援することの方が、私、好きだったんだもん」

「もぅ……」

昔から、誰もが輝に惹かれていた。
双子で、同じ身長体重で、洋服も対だった時から。

大人も、同級生も、皆みんな、輝に惹かれた。
可愛くて、愛嬌があって、元気いっぱいで。

だからこそ、虐められていた時期もあったけど、それは燈が代わりになれば良かったし、その時はいつも、『同じ顔で良かった』と思っていたの。

大切な、大切な妹だったから。
自分よりも、大切な妹だったから。
大切だったから。
彼女を愛し守ることが、自分の存在意義だと思えたから。


だから。


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