これが愛じゃなければ
第一章:愛された女優
遺された恋人 side夏木匠
─……水無瀬輝の死から、3ヶ月後。
「ひかり」
名前を呼ばれて、“彼女”は振り返った。
「どうしたの?マネージャー!」
「先方の都合で、この後の撮影、延期になった」
「分かった〜!じゃあ、この後はお茶しよ!美味しいカフェ見つけたんだ〜!」
そう言って、共演者も誘いに行く姿。
明るくて、周囲を照らして、誰からも愛される女優。
ドラマ現場でもアイドルのように明るくて、それでいて、出番になると、スイッチが切り替わり、ミスひとつなく演じきるその姿、その演技の迫力は暫く休止を経てから一層、鋭くなった。
そんな彼女の仕事は現在、バラエティーとドラマのみ。
あと、CMとか。─モデルとかは全部、彼女の意向で理っている。そして、その理由をマネージャーは知っていた。
「……大丈夫か」
事務所の社長─若久右京(ワカヒサ ウキョウ)に声を掛けられ、マネージャーこと夏木匠(ナツキ タクミ)は微笑んだ。
「大丈夫です。─彼女が頑張ってるんですから」
右京は、仲間だった。秘密保持の仲間。
彼女の秘密を知る、限られた相手。
この秘密は、彼女を含めた3人しか知らない。
「もう少し、休んでも良かったんだぞ」
「でも、彼女の補佐は俺がしたかった」
─匠は、本物の水無瀬輝の恋人だった。
婚約関係にもあったが、結婚までは輝の意思が固く、踏み込むことはなかった。
今思えば、自分が早くに死ぬことを理解していたのだろう。
匠が寡夫にならないよう、彼女は婚約だけに留めたのだ。