Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~
「もちろん、わたしがあなたを見たのは昨日が初めてではないんです。五年ほど前、あなたは一度父上と一緒にイギリスに来た。覚えていますか? その時、実業家が集まるパーティーにあなたも連れて来られていた。あなたはまだ学生だったでしょう。幼かった。わたし達から見ればまだ童女のようにさえ見えた。しかし──」
途切ることなく続けられるケネスの話に、あかねは当時をうっすらと思い出した。
確かに、その頃一度父に連れられて渡英した記憶はある。
五日程度の短い旅だったはずで、父の仕事がてらに、見聞を広めるようにと同伴させられたのだ。ビジネスのパーティーのようなものにも、顔を出した覚えがある。
「しかし美しかった。いや、正確には、いつか美しくなるだろうと感嘆させられた。あの時のあなたが私の心をとらえたのです。とらえて放さなかった。今日まで。そしてこれからも」
ケネスの言葉は、まるで旋律のようだった。
それが自分に対する愛の告白でなくとも、あかねは聴き入ってしまったはずだ。
「振り切ろうと思った事もありました。諦め、忘れようと。しかしある時点で、そんなものは無駄な足掻きだと気が付いたのです。いつかあなたに会いに行こうと思いましたよ。それが先日、あなたの父上の悼辞を突然耳にしたんです」
淡々と語られているようで、ひどく熱っぽくもある。
熱いのに──でも、なぜか足先が冷えていくような冷たさも感じた。
愛の告白をされているはずだ。
それが、どうしてこんな緊張を誘うのだろう。
「いきなり結婚とは驚かせたでしょう。けれどあれがわたしの正直な気持ちです。あなたほどわたしの心を強く捕らえた女性はこの世にいない。いきなり求婚とは行き過ぎだったかもしれませんが、アカネ、どんな順序を踏むことになっても、あれが最終的なわたしの願いになると、分かっているからこそ言ったのです」
「…………」