Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~
それから十数分ほど、ふたりはカウンター席に座ったまま話を続けていた。
内容といえば、あかねのロンドンの印象はどうだとか、日本の文化についてだとか、食べ物の違いについて──そんな、カジュアルなものばかりだ。
雰囲気も、仕事の同僚同士が同じテーブルに付いて語っているだけ、という感じでしかない。
少なくともあかねはそう思っていた。
カフェ・ラテの魔力か。
それから無邪気に会話を楽しんでいたあかねは、その時すでに四回目になる着信と数え切れないくらいのメッセージ──バイブレーターになっていた──に気が付かないでいた。
ガラス窓に見慣れた長身の影がうつったのは、そんな時で、あかねは驚いて顔を上げた。
入り口の自動ドアが音を立ててスライドして、ケネスが店内に入ってくる。チャールズは気が付いていないのか、まだ話を続けていた。
「アカネ」
と、ケネスが声を出して初めて、チャールズも顔を上げた。
ふたりの元に大股で近づいてきたケネスと、座ったままのチャールズが、あかねを挟んで対峙する。
「ケ、ケン……? 仕事中だったんじゃ」
「折り返すって言っただろう。ずっと答えないから何かあったのかと──」
「え!」
あかねはあわててバックに放り込んであった携帯を探った。
──すると確かに、『4 calls』と素っ気無い文字が待ちうけ画面に映っている。ロンドンに着いてから英語設定に変えていたのだ。これが着信記録なのだろうか、あかねは色々な意味でショックを受けた。
携帯電話を両手に持ちながら自分を見上げるあかねに、ケネスは盛大な溜息を吐く。
「ご、ごめんなさい! 気が付かなくって……」
「いや――それはもういい。それより」
ケネスはチャールズに鋭い視線を投げた。チャールズは困ったように肩をすくめ、眉を上げる。
「少し話してただけだよ。さぁ、仕事に戻るかな……アカネ、楽しかったよ。またね」
チャールズはカップを持って立ち上がった。あかねはなにか言わなくてはと口を開きかけたけれど、結局、チャールズはそれより先にその場を離れてしまった。
立ったままのケネスと座ったままのあかねがそこに残されて、しばらく沈黙が流れた。