吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)
「くそ」と言って、カムイさんが血に(まみ)れた両手を握り締めた。見ると、彼女の目から一筋の涙が伝っている。

 谷の女性が織田に刺されて亡くなったのだ。深緋は酷い罪悪感に苛まれ、カタカタと歯を鳴らした。「ごめんなさい」と声が震える。

「おまえのせいではない」

 いつもの凛とした態度でカムイさんが振り返った。

「我がドラキュラの回復力を見誤っていたせいだ。彼奴(あやつ)は異様な聴覚でヤヒロたちの会話を聞いて、ドラキュラ封じの存在を知った。吸血で間合いに入ったヤヒロを刺し殺し、ヨスガを脅して書庫の本を盗んだ。きっと今頃は下山している所だ」

 それでも、今夜あの殺人鬼を谷へ入れなければ、こんな悲劇は起こらなかった。深緋は喉を震わせ、目から涙を溢した。白翔が寄り添い、肩を抱く。

 そばでカムイさんの嘆息が伝わった。「村本館へ戻るぞ」とぶっきらぼうな声で言い、深緋たちは無言で彼女に付き従った。

 やがてカムイさんの側近である二人と合流する。ミハネさんとユンナさんが門番の女性から話を聞いてきたのだ。

 先ず、門番の女性は無傷だった。織田は門番を脅し、一人で下山したそうだ。殺気立った様子で手には血の付いたナイフを握っていたと言う。

 殺人鬼が未だに野放しになっているというのは、震撼たる事実だが。自分たちの力だけではどうしようもない。
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