あなたの1番になりたい。
アルコールの匂いが少しだけ薄まった保健室で、永原先輩が右膝を軽く伸ばした。

「いや〜助かったわ。宮野ちゃん、手当上手いね」

「…そうですか?」

「うん。普通に医者向き」

「褒め方が適当です」

そのやり取りの途中で、結城先輩がもたれ掛かっていた壁から背を離した。

「……」

何も言わないまま、出口の方へ歩く。

「あ、結城どこ行くの?」

永原先輩がすぐに声をかけるが、結城先輩は足を止めない。

「用事」

「いやいや、用事なんてないでしょ」

「ある」

光よりも速い即答。


結城先輩の様子を見ていた永原先輩がニヤッとする。

「逃げたな」

「違う」

「絶対逃げた」

「違う」

ドアノブに手をかける結城先輩の背中は、いつも通り落ち着いているのに、なんだか少しだけ早い気がする。

永原先輩が両頬のエクボを光らせながら言う。

「宮野ちゃん、置いてかれるぞ〜」

「別に、…」

何か言葉を言いかけて、途中で止め、結城先輩が一瞬だけこちらを見る。

ほんの一瞬。
しかし、視線が合う前にすぐ逸らされ、
先に戻る、と言ってパタン、と扉の閉める音を響かせた。



「…置いてかれちゃいましたね」

「うん。たぶん今、逃げた」

用事…って言ってたな。
あ、そっか。あの子を迎えに行かなきゃいけないのか。

保健室の壁に掛かっている時計を見ると、もうすぐ下校の時間を迎える。

用事は本当にあって、愛ちゃんの迎えに行かなきゃいけないんですよー、と言った方が良いかもしれないが、そうなったらあの子の説明をしなければならない。

うん、それは面倒くさい。
何も言わない方が良いと判断して、私は返事をしないまま、ピンセットを握り直した。

あと2箇所、絆創膏を貼らなければならない仕事が待っている。


< 22 / 22 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop