野いちご源氏物語 四五 橋姫(はしひめ)
帰っていく阿闍梨(あじゃり)と一緒に、上皇(じょうこう)様はお使者(ししゃ)を宇治(うじ)へお遣(つか)わしになった。
「寂しいところでご立派に修行(しゅぎょう)なさっていると聞きました。私も出家(しゅっけ)したいとは思っていますが、あなたは賛成してくださらないでしょうか」
というご伝言を、八(はち)の宮(みや)様はよろこんでお受けになる。
都(みやこ)からのお使者なんてめったに来ないから、地元の食材でおもてなしなさった。

お返事は、
「悟(さと)りすましているというほどではございません。世の中をつまらなく思って修行に励(はげ)んでいるだけですが、そんな生活には宇治という寂しい土地が似合っております」
とお書きになった。
<やはり今も世間を恨(うら)んでおられるということか>
遠い昔、ご自分が東宮(とうぐう)の座(ざ)から引きずりおろされかけた事件を思い出される。
弘徽殿(こきでん)の女御(にょうご)様が「八の宮様を新東宮に」とかつぎ上げなさったけれど、結局失敗して、巻きこまれた八の宮様は貴族社会から追放されてしまったの。
上皇様は無事に東宮の座を守り、そのまま帝(みかど)におなりになった。
あらためて八の宮様のご生涯(しょうがい)をお気の毒にお思いになる。
< 17 / 56 >

この作品をシェア

pagetop