後悔しない、ひとつのこと
「そんなことが」

「昨日電話で聞いたと思うけど、あの人が父さん」

廉の過去は思っていたより苦しくて、なのにずっと笑っていた。

笑うしかなかった。泣けなかったから。

「私は、廉が悲しい時、辛い時は泣いてほしい。我慢しないでほしい。嬉しい時、楽しい時は思いっきり笑ってほしい。自分の感情を生かしてあげてほしい。廉のお父さんが何を思っているのか理解することはできない。わからない。でも、お母さんは廉に感情を表現して、豊かに生きてほしいと思っているって私は信じたい。信じるよ」

廉は大きく目を見開いていた。

「廉は、廉だよ。他の人に感情を合わせたら、廉じゃないよ。廉、自分を主張して。無理して笑わないで。感情を私と一緒に分け合おう?」

廉の目には涙が溜まっていた。今にも溢れそうなくらいの。

でも、なかなか頷いてくれなかった。

「でも、やっぱり俺は_」

「廉、私がいるよ。どんな感情でもいい。悔しいとかでもいい。廉が思ったこと、教えてほしい」

しっかりと、目を見て伝える。そうしないと、伝わらない気がした。私の思いを、受け取ってくれない気がした。

「本当にいいのかな?苦しいって思った時に泣いても。楽しいって思った時に笑っても。自分の感情を誰かに言って生きて、いいのかな?」

不安そうに尋ねてくる廉の顔には、涙が流れていた。

「当たり前じゃん。廉は廉として、生きていこうよ」

気づけば私の頬にも涙は伝っていた。

2人で目を見合わせ、笑い合う。

この時初めて、廉の笑顔が見れたと思った。
泣いてくれたと、そう思った。
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