愛を呑み込んで、さようなら
ー ナギ side ー
バタンと静かにドアを閉め家を出たユア。ユアを引き止めようと浮いた右手はどこにもかけられることなくブランと力をなくし足の横に力なく下がる。
ー本当は浮気なんてしたくなかったし、するつもりなかった。けど仕事で残業が増えて辛い俺のそばに居てくれたのはユアじゃなくて先輩だった。俺が入社した時から目をつけていたらしい。最初は俺も彼女がいるから、と誘いを断っていたが…
ある日飲み会に参加した時俺の飲み物に睡眠薬が入れられた。もちろんその時の俺は気付かずに酒を飲み干した。
突然来る睡魔は酒のせいだと思っていた。記憶の中の俺は飲み会の解散後ちゃんと真っ直ぐ家に帰りユアと寝ていたが実際はホテルに行きあの先輩と夜を共にしていた。
ーーだが、今更何を言っても、言い訳にしかならない、いや…言い訳にすらもならない。5年間のユアの気持ちと思い出を無駄にしたのは俺だ、壊したのも傷付けたのも…俺だ。
「…ユア」
好きな人の名前を呼ぶ。裏切って、傷付けて、ごめんなさい…もう許されないだろう、許しはしないだろう。もう元に戻らないだろう…
割れたお皿だっていくら頭を捻ってももう割れる前には戻らない…俺たちの5年間の恋人関係は俺の浮気により 割れてしまったーー。
ユアが居なくなった家は、一段と寒く空気が凍っていたような気がする。
温かさや愛おしさを失った俺の心は、どこへ向かうのだろうか?遠い、遠い…闇の向こうで。