そのキス、契約違反です。
息を殺す間もなく扉が開いた。
ぞろりと黒い影が、部屋の中に流れ込んでくる。
Nocturneのピンバッチは、つけていない。
つまり悠真の部下—— Nocturneじゃない。
代わりに目に入ったのは、首元に覗く蛇のタトゥー。
噂通りであれば、この人たちはおそらく………黒蛇会。
視線が私に向けられた瞬間、背中を冷たいものが這った。
「……この女か」
視線が私の顔から、首元へ、肩へと落ちていく。
触れられていないのに、肌をなぞられるような感覚がして、ぞっとする。
私はぎゅっと拳を握りしめた。
「こいつのせいで、どれだけ面倒なことになってると思ってんだ?」
「商品は逃がすわ、捕まえてた連中も解放するわ……神楽組の若頭まで逃がすとかふざけすぎだろ」
吐き捨てるように言いながら、男のひとりが一歩距離を詰めてくる。
「なぁ。こいつを傷つけたら、あいつどんな顔すると思う?」
「はは……嫌がるだろうな。」
銃はない。
さっき部屋に入る前に、悠真に回収された。
この狭い空間にこの人数。
逃げ道はあの扉しかないけど、道を塞がれている。
正面から戦っても…正直勝ち目はない。
でも、何もせずに怯えたまま立っているつもりはなかった。