嘘と欲求
 翔真は緩んでいた表情を引き締めた。机の下に隠して見ていたスマホを切り、ポケットに突っ込む。伊織本人だろうが伊織関連のものだろうが、周りに誰かがいる中でスマホを向けてパシャパシャ撮るのは憚られる。

 それならば、どうするべきか。熟考する翔真は、机の上に両肘を立てて指先を組み合わせた。その上に顎を乗せ、どこを見るでもなく一点を見つめる。

 方針は決まったものの、誰にもバレないように撮影するのは容易ではないだろう。都合の良い展開ばかり想像していたせいで、立ちはだかっていた壁に気づかず真正面からぶち当たってしまった。衝撃に頭が痛くなりそうだった。

 ふっと瞼を下ろした。視界を閉ざすことで、嫌でも目に入ってくる余計な情報を一気に遮断する。散らばっている考えをまとめ、結論を下す。

 伊織のあれこれについては、これまで通り尾行して探る。写真については、その過程でタイミングがあれば撮る。ひとまずは、撮れる機会を待ってみるのがいいかもしれない。

 いつまでも結果が出なければまた方法を考え直せばいいだけで、最初から完璧にやり遂げようとする必要はない。焦るな。焦るな。平凡な自分にできることなど限られているのだから。

 翔真は言い聞かせながら、いいねを貰った興奮に飲み込まれないように大きく深呼吸をした。ゆっくりと目を開ける。生徒が一人、教室に入ってくる。出入り口に近い席に着いている翔真の前を、欠伸を噛み殺しているのか眠そうな顔で通り過ぎていく。

 組んでいた指を崩した翔真は、全体重を預けるように椅子の背に凭れかかった。最前列となり、頻繁には目に焼き尽くせなくなった伊織を思う。いつも本を読んでいるため、何とはなしに振り返っても、カバーに包まれた本を読んでいるだけだろう。万が一にもカバーが外されているわけもない。

 本のタイトルやジャンルを知りたければ、もう直接聞くしかないのだろうか。もし声をかけるのならば、鳴りを潜めている勇気の欠片を引っ張り出して掻き集め、それを思い切り振り翳す覚悟を決めるところから始めなければならない。
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