嘘と欲求
考えただけで億劫だった。伊織を親友にしてはいるが、現実は全く親しいわけではない。話しかける行為は心理的な負担が大きかった。誰とでもフレンドリーに話せるタイプであればと思ったが、だったらそもそも、裏でこそこそと親友でもない人を親友になどしないだろう。
慣れない行動をとってぎこちなくなるくらいなら、また伊織が書店に向かった時に追いかければいい。商品を選んでいる間は、決してカバーに邪魔はされない。それまではお預けだ。
朝っぱらからうんうん唸り、今後についてある程度整理したところで、前触れもなく欠伸が出た。口を隠して深く息を吸い、深く吐く。目が濡れる。
身を捩って椅子に座り直すと、傍で人の気配を感じた。影は机と机の間の通路を通り過ぎるわけでもなく、なぜか翔真の近くで立ち止まった。何か用があるのかと警戒スイッチをオンにする翔真は、徐に顔を持ち上げた。
意思とは関係なしに悲鳴を上げそうになった。ガタガタと激しく音を打ち鳴らして椅子から転げ落ちそうになった。堪える。喉元まで迫り上がった声も出さずに堪える。代わりに、発声のエネルギーが胸部に集中するかのように、心臓がバクバクと轟音を立てて暴れ始めた。
「西原に聞きたいことがあるんだけど」
仰天のあまり一人でバタバタして視線を彷徨わせる翔真を意に介さず、目の前の伊織は至って冷静に話しかけてきた。冷淡なのかマイペースなのか分からない。ただ、淡々とした声の調子や、翔真を見下ろすきつめの眼差しから察するに、驚かす意図があったわけではなさそうだ。
本人に悪気はなくとも、伊織を意識している翔真にとっては心臓に負荷がかかりすぎる登場だった。
激しく脈打つ鼓動を鎮めさせようと胸を押さえる。別に汗などかいていないのに額の汗を拭う仕草をする。気休め的な動作を考えもなしに繰り出しながら、翔真は脳内で伊織の言葉を復唱し、反芻し、咀嚼した。
慣れない行動をとってぎこちなくなるくらいなら、また伊織が書店に向かった時に追いかければいい。商品を選んでいる間は、決してカバーに邪魔はされない。それまではお預けだ。
朝っぱらからうんうん唸り、今後についてある程度整理したところで、前触れもなく欠伸が出た。口を隠して深く息を吸い、深く吐く。目が濡れる。
身を捩って椅子に座り直すと、傍で人の気配を感じた。影は机と机の間の通路を通り過ぎるわけでもなく、なぜか翔真の近くで立ち止まった。何か用があるのかと警戒スイッチをオンにする翔真は、徐に顔を持ち上げた。
意思とは関係なしに悲鳴を上げそうになった。ガタガタと激しく音を打ち鳴らして椅子から転げ落ちそうになった。堪える。喉元まで迫り上がった声も出さずに堪える。代わりに、発声のエネルギーが胸部に集中するかのように、心臓がバクバクと轟音を立てて暴れ始めた。
「西原に聞きたいことがあるんだけど」
仰天のあまり一人でバタバタして視線を彷徨わせる翔真を意に介さず、目の前の伊織は至って冷静に話しかけてきた。冷淡なのかマイペースなのか分からない。ただ、淡々とした声の調子や、翔真を見下ろすきつめの眼差しから察するに、驚かす意図があったわけではなさそうだ。
本人に悪気はなくとも、伊織を意識している翔真にとっては心臓に負荷がかかりすぎる登場だった。
激しく脈打つ鼓動を鎮めさせようと胸を押さえる。別に汗などかいていないのに額の汗を拭う仕草をする。気休め的な動作を考えもなしに繰り出しながら、翔真は脳内で伊織の言葉を復唱し、反芻し、咀嚼した。