嘘と欲求
仲の良い友人とわちゃわちゃ喋りながらぞろぞろと教室を出て行く生徒の姿をぼんやりと眺める。人混みが落ち着いてから出て行こうと、何をするでもなく突っ立っている翔真の目に、群衆に紛れるように移動する伊織の姿が映った。反射的について行こうとしたが、数人で固まって廊下に出るグループに阻まれてしまう。タイミングを逃した。伊織の姿は見えなくなった。翔真は思わず息を吐く。仕方がない。
体育が絡むと無気力になってしまう翔真は、先に行った集団に加わろうともせずに教室を見回した。まだ着替えている生徒がいた。先にトイレにでも行っていたのかもしれない。人がほとんどいなくなっていることで焦りを感じているのか、ヤバいヤバいと慌てた声が聞こえてきそうだった。よく見るとその生徒は、伊織の近くの席を制服置き場として借りていた。
伊織の近く。翔真の視線が、まるで何かに引き寄せられるように伊織の席へ移動する。無人の席。机の上には伊織の制服。机の中には伊織の私物。意図的に自制をやめた翔真の中で、ある黒い衝動が鎌首を擡げる。唾を飲んだ。息が漏れた。心拍数がじわじわと上がった。
早着替えのようなスピードで、制服から体操服に変身した生徒が、バタバタと教室を去って行く。その際、目が合った。行かないのかと一瞬不思議そうな顔を浮かべられたが、他人のことなど気にしていられないとばかりにすぐ逸らされた。廊下をすたすたと足早に進んでいく足音を耳にする。程なくして、音が聞こえなくなり、気配も感じられなくなった。
無音の教室に、翔真だけが残った。翔真しかいなくなった。他の誰もいなくなった。自分しかいない状況を自覚すると、不意に芽生えた衝動がむくむくと大きくなっていくのを実感した。
良くないと分かっていた。分かってはいたが、欲求を抑えられなかった。伊織を知りたい。伊織の中身を知りたい。ただ目で追うだけでは得られない伊織の内側を知りたい。伊織の何もかもを知りたい。伊織のことは他の誰よりも知っていたい。知っていないといけない。伊織は親友なのだから。
体育が絡むと無気力になってしまう翔真は、先に行った集団に加わろうともせずに教室を見回した。まだ着替えている生徒がいた。先にトイレにでも行っていたのかもしれない。人がほとんどいなくなっていることで焦りを感じているのか、ヤバいヤバいと慌てた声が聞こえてきそうだった。よく見るとその生徒は、伊織の近くの席を制服置き場として借りていた。
伊織の近く。翔真の視線が、まるで何かに引き寄せられるように伊織の席へ移動する。無人の席。机の上には伊織の制服。机の中には伊織の私物。意図的に自制をやめた翔真の中で、ある黒い衝動が鎌首を擡げる。唾を飲んだ。息が漏れた。心拍数がじわじわと上がった。
早着替えのようなスピードで、制服から体操服に変身した生徒が、バタバタと教室を去って行く。その際、目が合った。行かないのかと一瞬不思議そうな顔を浮かべられたが、他人のことなど気にしていられないとばかりにすぐ逸らされた。廊下をすたすたと足早に進んでいく足音を耳にする。程なくして、音が聞こえなくなり、気配も感じられなくなった。
無音の教室に、翔真だけが残った。翔真しかいなくなった。他の誰もいなくなった。自分しかいない状況を自覚すると、不意に芽生えた衝動がむくむくと大きくなっていくのを実感した。
良くないと分かっていた。分かってはいたが、欲求を抑えられなかった。伊織を知りたい。伊織の中身を知りたい。ただ目で追うだけでは得られない伊織の内側を知りたい。伊織の何もかもを知りたい。伊織のことは他の誰よりも知っていたい。知っていないといけない。伊織は親友なのだから。