嘘と欲求
 前の授業が終わったばかりの休憩時間、翔真の周りの席の女子生徒三人が文句を垂れていた。その会話で、次の授業が体育であるのを翔真は思い出す。女子生徒の言葉に引きずられるように、翔真もどんよりとした気分になってしまった。

 聞こえた愚痴には翔真も同意である。ここで会話に割り込める男子はいかにも陽キャの人間だが、翔真はそうではないため無言のままでいた。まず割り込む気など毛頭なかった。心の中で共感するのみである。

 翔真の運動能力は、見るに堪えない奇怪な動きをしてしまうほど音痴なわけではないが、かといってできると言えるわけでもない中途半端なレベルだった。チームの足手纏いになったりギリギリならなかったりするくらいのレベル。できるかできないかではっきりと分別するなら、確実にできない方だ。

 気にしている伊織に無様な姿を見られているかもしれないと思うと、体育の時間だけ木っ端微塵に砕け散って消えてしまいたくなる。伊織は翔真よりも断然動ける人だった。

 着替えるために別クラスへ移動する女子生徒を尻目に、翔真は先程の授業の教科書やノートを机の中に押し込んだ。体操服などの入ったバッグを手にしながら、さりげなく後ろを振り返る。

 すぐに伊織を見つけた。ちょうど、制服を脱いでいるところだった。女子はまだ数名残っている。全く気にしている様子はないが、それは他の男子も一緒だった。男子よりも女子の方が気まずそうで、俯きながら慌てて教室を出て行く。

 入れ違いで他クラスの男子が続々と入ってきた。運悪く伊織との間に入られ、姿がよく見えなくなってしまう。強制終了である。しかしながら、例え同性であっても着替え中をじろじろ見るのは変態行為極まりないため、それはそれで良かったのだと前向きに捉えた。

 手にしたバッグを開け、体操服を引っ張り出す。緩慢な動作で制服を脱ぎ、これから運動をします、という格好に着替えた。深い溜息が漏れそうになった。伊織が動いている姿を見られるのは得だが、自分が動いている姿を伊織を含めた他の生徒が目にすることを考えると、やはり消滅してしまいたくなった。
< 42 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop