嘘と欲求
 自分は、周りからヤバい奴だと、犯罪者予備軍だと形容される人物を親友に選び、文字通り、親友だとネット上に公表し続けた。犯罪者予備軍と言われるほどにヤバい奴と親友である奴もヤバい奴だと顔を歪められる。

 親友が殺人欲求を持っていると知らなかったとしても、一緒にいて気づかないとか鈍感すぎる、人を見る目がなさすぎる、などと、安全圏にいる外野から好き放題言われ、普通ではない異常者の烙印を押されてしまうだろう。

 今はまだ伊織に大勢の意識が向いているが、いつ、誰が、どのような形で、伊織を親友にしている翔真の存在に気づくか分からない。いつ表に引き摺り出されるか分からない。伊織の背後にいつまでも隠れてはいられない。

 伊織を犯罪者予備軍と称する引用は伸び続けている。広まっている。白が黒に侵食されていく。天地がひっくり返ったように、数分前とは全く異なる世界が展開されている。

 あまりの落差に翔真は冷静さを失いかけていた。伊織に対する誹謗中傷の一歩手前の言葉ばかりが脳内を支配し始めている。

 否定的な意見そのものの母数は少ないはずなのに、一つ一つが大きく存在しているように見える。少し組み合わさるだけで、みるみるうちに闇が巨大になっていく。

 自身に取り巻いている悪い空気をどうにか払拭したい翔真は、食い入るように前向きな返信と引用を探した。良い意見だけ読んで、読んで、読んでも、気休めにしかならない。根本的な解決にはならない。

 見るのをやめた方がいい。一回離れた方がいい。もう一人の自分が制止を求めているが、指は画面を走り続ける。摩擦。摩擦。摩擦。バチッと、火花が散る。

【この画像ってさ、普通に盗撮写真じゃない?】

 指先が、画面から離れた。心臓が、不快な音を立てた。脳内が、最悪な未来を映し出した。大勢が、翔真と伊織を炙ろうとしていた。今にも燃え上がらんばかりの火の中へ、二人まとめて叩き落とされた。奈落の底は、真っ赤だった。
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