至上最幸の恋
 無理に気持ちを押さえ込むのはやめたけれど、少しずつ離れていく努力はしなくてはならないと思う。瑛士さんと歩く未来が描けないのなら、この想いはきっと、自分の枷になってしまうだけだもの。

 時間はかかるかもしれない。それでも、半歩ずつでも前に進まなくちゃ。
 そんな思いを胸に抱えたまま、翌日を迎えた。

「それじゃ、僕はこれで」

 今日の取材を終えたあと、黒瀬さんが美術館まで車で送ってくださった。

「せっかくの時間ですから。ゆっくりと、気分転換をしてきてくださいね」
「はい、ありがとうございます」

 黒瀬さんのお心遣いに感謝しながら、車を降りた。
 まだ15時半で、時間にはかなり余裕がある。ゆっくりと観て回れそうだわ。

 東京都美術館は、子どものころ父がよく連れて来てくれた場所。絵画や彫刻、工芸、写真……幼いころから、たくさんの芸術作品に触れさせてもらった。そして美しい作品を生み出す芸術家が魔法使いのように思えて、ずっと憧れていた。

 だからこそ、瑛士さんに惹かれたのかもしれない。
 ウィーンの公園で、ベンチに座ってスケッチブックを開く瑛士さんのお姿を見たとき、あまりに綺麗で目が離せなくなった。私が探し求めていたのは、この方だったのだと思ったの。
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