至上最幸の恋
 自分の中で抱えられなくなるまで、相手に心の内を明かすことはない。そんなふたりが一緒にいて、うまくいくわけがなかった。

 律は涙を拭いながら、なにかを確かめるように何度も頷いた。
 きっともう分かっているのだろう。これ以上一緒にいても、同じことを繰り返すだけなのだと。

「……ご飯、冷めちゃったわね」

 律が、いつもの笑顔を向けてきた。

「いま温め直すから」
「いや、いいよ。律の飯は冷めてもウマいし」

 今日の夕飯は、オレの好きな筑前煮だった。レンコンやゴボウがたっぷり入っていて、味がしっかり染みている。

「うん、やっぱりウマいな」
「筑前煮だけは、母に厳しく仕込まれたの。煮たあとに一度冷ますと、味がよく染みるのよ」
「へぇ、そうなのか」

 これも、もう味わえなくなるのか。そう思うと、やはり寂しさを感じる。
 いや、料理だけじゃない。律がいてくれることの安心感は、思っていた以上に大きかった。

「……ちゃんと食べないと、ダメよ」

 箸を止めて顔を上げると、律は柔らかな目でオレを見ていた。

「分かっているよ」
「本当かしら。あなたはいつも、熱中すると時間を忘れるでしょ。健康じゃないと絵は描けないんだからね」
「気をつける」

 律は小さく頷いて、それ以上なにも言わなかった。
 
 雨の音が聞こえる。
 その雨は、夜が明けてもまだ降り続いていた。
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