至上最幸の恋
 やっぱり、味の好みも親に似るのかしら。桔平もこれが大好きなのよね。子どものころ、瑛士さんがよくここへ連れてきていたみたい。

「もう20年か……」

 慧さんが、瑞巌寺の絵に視線を向ける。

 瑛士さんが旅立って、もうそんなに経つのね。あっという間だったような、長かったような……言葉では言い表せないわ。

「あの桔平が結婚するんだもんなぁ。瑛士が知ったら、驚くだろう」
「ええ。あんなにかわいらしい方がお嫁さんになるんですから、きっととても喜んでいますわ」
「浅尾の家に、新しい家族が増えるわけだ」

 私は再婚して、本條姓になった。さくらと楓も本條になったけれど、桔平だけは「浅尾のままでいたい」と言った。

 そのときはまだ7歳だったけれど、頭のいい子だから、自分が「浅尾」でなくなる意味も分かっていたのよね。

 そしていまは「浅尾桔平」として、父親と同じ日本画家の道を進んでいる。父・浅尾瑛士の名を背負う画家として、苦労することもあったと思う。

 それでも、瑛士さんの息子だもの。きっとこれからも、自分の道を歩いていけると信じているわ。
 
「見せたかったな、瑛士に」
「見ていてくださっていますわ。いつも」
「そうか。そうだな」

 ふっと笑い、慧さんがホットコーヒーを口にした。

 私の心には、ずっと瑛士さんがいる。だからあのころは、生涯、瑛士さんだけの妻でいるつもりだった。
< 282 / 287 >

この作品をシェア

pagetop