始まりは一夜の出会いから
 お土産の事を心配しているのか、まだ顔色は暗い。いや、心配もあるだろうけど、どちらかと言えば緊張?


「緊張してる?」

「そりゃあね。知らない取引先に行くよりも正直緊張してる」

「新くんなら大丈夫だよ」


 笑ってそう伝えると本人は気が気じゃないのか「それならいいけど…」と言葉にしながらもまだ顔色は明るくならない。

 うちの両親やおばあちゃんに会ってみたらそんな心配もすぐにどこかへ吹き飛んでいくだろうとは思っているのだけど、普段口数の多い彼がこんな風に口数が減って黙っているのは何だか新鮮だった。

 今私が何かを声掛けてもその時が来るまで、この緊張の糸は解けはしないと思う。

 車の中で静かに過ごして少し経った頃、実家について家のインターホンの前に立つ。

 インターホンを鳴らす前に新くんの方を見ると深呼吸をしてうんと頷いていた。

 その様子を見てからインターホンを鳴らすと『はーい』と返事が聞こえてすぐにブツッと通信が切れた音がした。

 きっと私達の姿を確認して今玄関を開けに来てくれている。

 予想通り中から足音が聞こえるとすぐに玄関のかぎがガチャッと回る音がしてそっとドアを開けた。


「おかえり!有咲!初めまして、新くん!有咲の母です」


 そう笑いかけてくれるお母さんに少し安心して「ただいま」と返事をした。
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