始まりは一夜の出会いから
 30分くらい気持ちを落ち着かせて、メイクも直してリビングの方に向かうと、私服に着替えた佐々木さんがソファーに座っていた。

 私の気配を感じたのか少し振り返って、私の方を見る。


「ご迷惑おかけしました」

「いいえ、落ち着きました?」


 立ち上がって近寄ってくると、少し優しい笑みを零して私の頭を撫でる。その手付きが優しくてまた泣きそうになる。

 泣いたらせっかく直したメイクが台無しだ。


「ねぇ、有咲さん。本当は有咲さん、俺の事好きでしょ」

「え?」


 思わぬ言葉に目を見開いて驚いていると佐々木さんはほんの少し柔らかく笑った。


「でも、認めたくないし怖いんですよね。俺に嵌って元カレの時になるかも~って」

「…っ!」


 図星で何も言えなくなる。

 この人、私の気持ちを知っててずっとアピールしてきていたんだ。やっぱりずるい人。


「元カレの事は本当殴ってやりたいし、比べられるのも癪ですけど、今は有咲さんとのこの駆け引きも楽しいので、良いです」


 そう言いながら私の頬に手を滑らせて撫でる。

 頬がくすぐったいけどそれよりもとんでもない事を口にしている佐々木さんから目が離せなくなる。

 この状況を楽しむなんて、この人どうかしている。


「絶対その内理性なんて意味がないくらい、好きにさせるので覚悟しててくださいね。有咲さん」

「いや、嫌です」

「俺も嫌ですけど。ていうか振られたくらいで諦める男じゃないので」


 そう言って首を振る私に佐々木さんは楽しそうに笑っている。

 私はとんでもない男と、あの日一夜の繋がりを得てしまっていたのかもしれない。
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