始まりは一夜の出会いから
 パッとしない気持ちでいつもの様に話をしながら新くんと居酒屋を出て歩く。

 今日はあまり飲みたい気分になれなくて、少しも酔ってなんかいなかった。

 気持ち的には酔いたいのにお酒は進まなくて、今日の会話もいまいち覚えていない。


「有咲さん、何かありました?」


 声を掛けられてハッとする。

 しまった、自分で考え事の世界に入りすぎてぼーっとしてしまっていた。

 新くんが私の顔を覗き込むなり少し心配そうな表情をしていて、いつの間にか握られていた手に力が入る。

 正直に聞いてみても良いかな。聞いたらこんな私を面倒だと思うだろうか。

 新くんの目を見つめると小首を傾げていた。

 少しだけ勇気を出して震える声で問いかける。


「…新くん、私の事好き?」

「え?有咲さんからそんな事聞かれるなんて、びっくり。好きですよ」


 当たり前の様に答えてくれるからようやく少しだけ安心する。

 仁と新くんは全然違う、浮気なんかする人じゃない。


「今日、お昼見ちゃったの。綺麗な女性と隣を歩いてるのを」

「綺麗な女性ですか?」


 思い当たる節が無いとでも言いたげに少しぽかんとした表情をしている。

 お昼絶対女性と居たはずなのに、惚けているのか。何の為に?


「ああ、打ち合わせ先の人の事ですかね。綺麗でした?」

「え…?綺麗だったよね?」


 あの人のレベルで綺麗かどうかわからないって、私は何になるんだ。

 その辺に落ちているゴミレベルまで下がらなきゃいけなくなる。


「俺にはあんまり綺麗とかそうじゃないとか分からないです。俺からしたら有咲さんが世界で一番綺麗な人なので」


 そう言いながらいつもの調子で笑ってくるから思わずすぐに言葉が出ず動揺してしまった。


「な、彼女だからって贔屓目で見てるでしょ」

「見てないですって!他の女性なんて眼中に無いって言いたいんです」

「…嬉しいけど、本当にそう思ってる?」


 新くんの気持ちを疑っているわけでは無いのだけど何度も確認したくなってしまう。今の私は自信が無いから。

 それと、遠回しに試しているのかもしれない。こんなに面倒な私でも愛してくれるのかなんて。
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