あの夏空を遮って

ep.1 最悪でした。

『何この点数! 前より低くなってるじゃない!』


 さっき言われた言葉と、頬の感触が忘れられない。

 母親は、小学校の先生をしていて、毎日朝早くから夜遅くまで働いていて、職場の先生たちからも信頼されているらしい。

 故にだろうか。母親は勉強に厳しく、私がテストを見せて、褒められた記憶は無かった。

 ついでに、母親は空手をやっていて、母親の平手打ちは、何回受けても慣れるものではなかった。

 私は91点の自分のテストをくしゃくしゃにしてゴミ箱に入れた。

 机の下の引き出しに入れてある折り紙を取り出し、鶴を折った。こうしていると、嫌なことを考えずにいられると思ったからだ。

 嫌なことがあったら鶴を折る。それがマイルールになってから数ヶ月だけど、私の引き出しは色とりどりの折られた鶴で埋まっていた。

 テスト返しは明日もある。そう思うと憂鬱だった。





「りーかっ。おはよ」


 翌日、親友の夏希が後ろから私の肩を叩いて声をかけた。


「夏希、おはよ」

「相変わらず元気無いね。またお母さんとなにかあったの?」


 家のことは、夏希にだけ話していた。

 親が手を出してくる、なんて言ってきたら、普通引くだろう。こいつに関わってはいけないと、みんな私から逃げていくだろう。

 でも夏希は、私の側にいてくれた。だから私は夏希に秘密は何も無い。


「うん、そんな感じ。テストの点数で怒られちゃった」

「うぇー、梨花テスト高いのに。梨花のお母さんは理想高いんだね~」


 夏希は、『お母さんの方が正しい』とは絶対に言わない。思っているのかはわからないけど、私に気を使っているのかと思うと、少し申し訳なくなってしまった。


「じゃあ、また放課後ね」


 クラスが違う夏希とは、私のクラスでいつも別れている。私も「またね」と返して教室に入った。



 今日も何も無い日々だった。
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