この夜の意味〜声にできない恋を隠したら、完全無欠な御曹司の本気スイッチ入りました〜(旧:RISKY〜不敵な御曹司との恋は避けるべき〜)
私を満たしていた圧迫感はすでに消え、そこにはぽっかりと穴が空いている。

本当に、終わってしまった。

一気に脱力感が押し寄せてきて、その場で崩れるようにへたり込む。

「もう一回……って、さすがに無理か……」

彼は目線を合わせるようにかがんで、名残惜しそうに頬に手を添え、「チュッ」と柔らかい唇の感触を与えてくる。

そんな残念そうに、言わないで……。私だって、もっと意識を失うくらいまで、行き着くところまで、彼と果てしなく飛んでみたかった。でも、彼とのわずかな記憶は、一つ残らず覚えてたいから。

きつく抱きしめられた腕の中で、彼の顔を見上げるのも、これが最後。さっきみたいに、もっと…もっと…とねだれたら、どんなに良いだろうか。今の私にはもう、それはできない。

夜の暗闇に視覚は塞がれているが、隣からはすべてのしがらみから解き放たれたように、安心しきって小さく息を立てる音が聞こえる。

心地よい体温も、指に沿う角度も、なんら違いはないのに、最後にもう一度だけ彼の存在を感じたいと、こうやって肌に触れてから何度同じ時間を繰り返しているだろう。触れるたびに離れがたくなる。

「文乃?いる?」

彼は寝ぼけた目をこすりながら、私の存在を確認する。行くなら、今しかない。今行かなければ、この幸せな日々から、私は本当に抜け出せなくなる。

「ちょっと、お手洗いに……」

頬から離れようとする私を引き止めるように、彼の大きな手が重なってくる。

「すぐ、戻ってくるよね…?」

「当たり前じゃないですか」

せめて、この記憶が重荷にだけはならないように、ふんだんに明るく言ってみせた。

「そうだよね……」

「社長」

「ん?」

「好きですよ」

彼が言ってくれたように、一度くらいしっかりと言葉にして伝えてみたかった。素直になって、みたかった。この一言が彼を苦しめるとわかっていながら、遠のく意識を、夜の暗闇を、言い訳にして……。

でも彼はそんな言葉だけじゃ物足りないと言わんばかりに、寝ぼけながらも「んー」と唇を突き出してくる。

この今にもせめぎあう感情が溢れそうな、情けない表情が少しでも悟られないように、頭を撫でるフリをして、彼の視界を塞ぎながら唇を落とした。

これが私の限界だ。ずっと好きだと、ずっと愛していると、言葉にできない思いをその数秒にすべて込めた。

また安心したように眠りにつく彼を見届けて
、温かい手の中から自分の手をそっと引き抜く。心地よく離れがたいその暗闇に、今度こそ本当に背を向ける。
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